南北首脳会談を控えて、朝鮮半島と日本を思う

松川 るい

いよいよ、南北首脳会談ですね。韓国は、朝鮮半島問題については、当事国でありながらバイプレーヤーになりがちですが、金正恩委員長だけでなく、ムンジェイン大統領という非常に確固とした特定の信念を持つ大統領がいることは朝鮮半島の今後のかたちに決定的に影響を及ぼすと思います。

3度目の南北会談の行方は?(画像は4月の会談時。韓国大統領府Facebookより:編集部)

ムンジェイン大統領(と大統領府)は、「南北融和が非核化につながる」という信念及び「ロジック」を持っています(非核化が南北融和につながる、ではなく)。ムンジェイン大統領は、韓国は北に分断された孤島ですから、南北が連結されることこそが朝鮮半島の発展のために不可欠であるという強固な信念があり(光復節など様々な演説で度々言及)、これは中長期的には「韓国にとっては」その通りだろうと私も思います。つまり、短期的には負担があったとしても南北連結が韓国にとっての長期的には最大の成長戦略だと、思います。

ちなみにムンジェイン大統領は、8月15日の光復節の演説では、南北が連結されて経済共同体ができれば、30年で約17兆円の経済的利益が得られると言っています。が、ともかく、南北経済共同体づくりがムンジェイン大統領の政治家として最も成し遂げたいことであり、正直、その前には、非核化は最重要事項ではないのだろうと思います。というか、むしろ、南北経済共同体を作ることが非核化実現につながるというロジックで自分の中では筋が通っているという風に言い換えても良いかもしれません。

今回の首脳会談では、米国に終戦宣言を出させるために何をすべきかということが南北朝鮮間で相談されることでしょう。もちろん、南北融和(軍事緊張緩和措置)と将来の経済共同体構想も話し合われるでしょうし、非核化について北朝鮮から前向きな発言(コミットメント)を引き出せるかという点が、次の米朝首脳会談で終戦宣言発出につながるかという意味で重要です。サムソンはじめ経済界を含めた200名もの大随行団を連れての南北首脳会談です。国連経済制裁下でどうやって経済協力の話を詰めるつもりなんだろうと疑問に思いますが、非核化を実現したら、こんな素敵な未来が待っているよ、という絵を詰めるということはできるのかもしれません。また、ロシアが国連制裁から除外に指定した南北ロシア石炭協力での進展は可能でしょう。

米朝協議が停滞してきた理由は、6月の米朝首脳会談が、まず会談実施が先にありきというか開催自体が目的で、首脳会談における合意内容の具体的な意味の詰めや約束実施の方法は首脳会談後に事務方で詰めてくれという放り投げ方をしたため(普通の首脳会談とは順序が逆だった)、ある意味当然の結果だったかもしれません。

北朝鮮は、既にプンゲリの核施設とトンチャンリのミサイル実験場を破壊したし、米兵の遺骨まで返還したんだから、今度は米国が終戦宣言を出す番だと思っています。米国からすれば、核放棄する気があるなら少なくとも核ミサイル施設のリストぐらい申告しろということなので、その前に先に終戦宣言を出すなんてありえないということです。

なお、トランプ大統領は、米朝間の核協議の停滞は、米中貿易戦争のせいで中国が非協力的になったせいだと言っていますが、中国が制裁を緩めたという顕著な証拠はないので、主として米朝間の祖語が大きくてなかなか埋められないままであるということにあるように思います。もちろん、北朝鮮が態度を大きくしたのは中国の後ろ盾があると思ってこそのことですから、そういう意味では中国の影響はありますが。

北朝鮮は先に終戦宣言を要求し、米国は、先に非核化リストを出せと要求しているわけですから、落としどころは同時にそれをやるということなのでしょう。これが年内の次の米朝で実現するという流れが考えられます。が、さらに、今回の南北首脳会談が盛り上がり、韓国が前のめりになって米国を説得し、(大統領以下のボルトン補佐官たちがオッケーするとは思いませんが、)トランプ大統領がそうだね、と思えば、国連総会にて、終戦宣言だけ(非核化リストはまだなのに)4者で出してしまう、なんてこともありえるのかもしれません。

普通は時間的余裕を考えても内容的にもあり得ないことですが、トランプ大統領は型破りな大統領なので、正直、わかりません。国連総会は、南北首脳会談からたったの10日後ですから、おそらく南北首脳会談の雰囲気を引きずったまま国連総会に突入することになるでしょう。南北首脳会談はおそらくとても「感動的」なものになるでしょうから、北朝鮮を国際社会の一員にしよう!という雰囲気は相当なものとなるように思います(もちろん、米国次第の面もあります)。金正恩委員長は、南北首脳会談がうまくいけば、国連総会に出席して、感動的なスピーチをするのではないでしょうか。

終戦宣言は政治的なものであり、平和条約が結ばれなければ、本当の終戦にはなりませんが、現実的には、南北間のみならず米朝間の緊張緩和をもたらし、制裁緩和の方向に風を向けることになるでしょう。非核化の進展は必要でしょうが、平和条約締結にもつながる道が開かれることになります。

金正恩委員長は、トランプ以外は頭が堅いが、トランプ大統領だけは自分の言うことを聞いてくれるんじゃないか、わかってくれるんじゃないか、と思っているように感じます。だから、昨今の米朝停滞状況の中での米国非難のレトリックの中でも、トランプ大統領だけは非難しないように気を付けてきています。結局、北朝鮮も米国もトップ同士で話を付けなければ物事は動かないということです。

先般、米国に行って来たら、匿名投稿とボブウッドワードの本(FEAR)の件で大々的に盛り上がっていました。トランプ大統領の支持率もかなり落ちてきています。米国外交も、結局、トランプ大統領次第なわけで、どういう判断をしていくのか、気がかりです。(ちょっと横にそれますが、これらの暴露本の中で、米国が北朝鮮を本気で攻撃する気だったということが明らかになったことは、北朝鮮の今後の行動には良い影響を及ぼすかもしれません。)

これまでも、金大中、廬武鉉と南北融和(連結)を夢見た韓国政権はありましたが、今回は、南北連結は夢では終わらず実現の可能性があるように私は思います。それは、韓国だけではなく、北朝鮮も中国もロシアもそれを望んでおり、北が核兵器を保有してしまったせいで、米国も半島問題に決着がつくことを望む構造にあるからです。

米国は、自国に届くICBMと核兵器は絶対に許容しないでしょうが、北朝鮮が核技術を隠し持つことや核兵器を隠し持つことは最後の最後は確認できない状況のまま終わる、ということはあり得るのではないかと思います。私は、正直いって、北朝鮮は、平和条約や経済協力と引き換えに相当大規模な核放棄をする意思はあると思いますが、核技術や「自己防衛のための」少量の核兵器まで全て根こそぎ放棄する覚悟があるとは信じられません。それを確認する手段が我々の側に与えられるかどうかもわからない。しかし、そのような中でも恐らく北朝鮮を地域経済に統合していくプロセスは始まるように思います。金正恩はまだ30代の指導者であと40年は北朝鮮を統治するのですから、彼の経済改革の意思は本物だと思います。こうしたリスクを考えるにつけ、日本は、いい加減国防を自分で全うできる体制を整えるべきではないかと思います。

各国政府サイトより:編集部

だとすれば、日本は、拉致、核、ミサイルといった個別の問題について個別対処するというアプローチではなく、北東アジア全体がどのような地域となることが日本にとっての国益か、大きな構想を描いた上で、その中で、北朝鮮をどのように位置づけ、そのように対処するかを考えるべきです。

私は、朝鮮半島が分断されたままの現状は日本の国益にとって悪くない状況だと思っていますが、仮に、南北朝鮮が人も物も行き来できる経済共同体的な存在となるということなのであれば、その朝鮮半島国家群が、親日とまではいかずとも少なくとも反日ではない安定勢力にすることが最低限日本の安全保障にとって必要であり、さらに、プラスを狙うのであれば、ユーラシアと日本をつなぐ北東アジア連携を日本にとって経済的に意味のあるものとすることが日本の国益だと思います。

韓国も中国もロシアも様々な北朝鮮を巻き込む北東アジアの経済構想を描いています。日本はただこれらに巻き込まれるだけではいけません。日本のレバレッジは、地理と経済力と日米同盟です。これを上手く使う構想が必要になってきました。

そして、こうした諸々のことを現実にしていくためには、北朝鮮との全うなコミュニケーション・チャネルが必要です。リーダーの意思を代弁しうるレベルのチャンネルが。日朝国交正常化は、日本にとっても北朝鮮にとってもいつかやらねばならない宿題です。安倍総理は、日朝首脳会談に意欲を示しておられます。極東ロシア、中国、モンゴル、南北朝鮮、日本に至る、北東アジアについての構想を持った上で北朝鮮に対処することが必要です。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2018年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。