矢沢永吉のサントリー愛がいい感じ

常見 陽平

矢沢永吉の東京ドームライブに行ってきた。永ちゃんのライブに行くのは3年ぶりだ。1999年、彼が50歳になった頃からライブに通っているが、年々チケットの獲得難易度が上がっている。今年のようにライブの回数をしぼり、大会場にする年などはチケットの絶対数の問題でそうなるわけだが。ファン層の広がりを感じる。

一言で言うと、素晴らしいライブだった。9月14日に69歳となった矢沢永吉。その翌日の東京ドームライブは、実によく声が出ていて。時によって野太かったり、繊細で美しかったりするその声は心に響くものだった。力強くステージを走り、マイクスタンドをぶん回す様子はとても69歳には見えなかった。

ガードする男たちに囲まれベンチからアリーナに歩いて登場してきた矢沢永吉は、いきなり会場後方から動くステージで移動という演出。このムービングステージは、以前のライブよりも大活躍しており、何度か永ちゃんはメインステージから客室後方に移動しながら演奏した(なお、インタビューやMCでも語っていたが、これは音がズレるので、演奏は簡単ではない)。他にも、矢沢バルーンが登場するなど、演出はいちいち素敵だった。舞台装置もよく出来ていて、バックモニターは驚くほどに解像度が高かった。そのモニターには矢沢のこれまでの歩みや、出演したCMやドラマなども流され、本人の歴史を感じた。グレイテスト・ヒッツ的な内容でありつつも、最近の曲やファンのリクエストによるレア曲の演奏なども行われた。愛娘矢沢洋子との共演も、18歳の時につくったという「アイ・ラブ・ユー、OK」や最後の「トラベリン・バス」では、自然に涙がこみ上げてきた。

矢沢永吉のライブは、新しいチャレンジの連続である。アコースティックライブ、ディナーショー、ライブハウス限定のツアー、若手のミュージシャンを起用したツアーなど、会場や演奏スタイルのチャレンジもそうだが、新しい舞台装置の導入、さらには飲酒入場禁止、チケットの転売チェックなどにも取り組んできた。

今回のライブでは、チケットの完全電子化に踏み切った。どういうものなのか、想像もつかなかったが、使い方は実に簡単で。会場の入り口もまったく混乱していなかった。チケットはメールで分配できる。転売はしようと思えばできるが、一定の抑止力にはなるだろう。

他にもLINEの公式アカウントを設置した上での、LINE限定先行販売も行われた。私はBLOGOSで永ちゃんのインタビューを読み。そこでLINE限定先行を知り、チケットを獲得することができた。他社の先行では一度、振られてしまっていたのだった。矢沢とLINEでつながっているというのもナイスだった。

ただ、矢沢永吉の「新しい取り組み」にはちゃんとツッコミを入れなくてはならないものもある。今回も演出で、アンコール2曲めの「サイコーなRock You!」では、会場後方からステージに数百人の人が光るものを持って走るという演出があったが「あれはなんなんだ?」という微妙な空気になったことは、ちゃんと突っ込んでおこう。

矢沢のライブでは、新しいチャレンジをするがゆえに、滑ることや、お金をかけているわりに盛り上がらない演出もある。かつて、パントマイムダンサーたちがアンコールの永ちゃんコールを煽るという演出があったが、これもまた「俺たち、勝手にやるから」という空気に満ち溢れた。「E.YAZAWA」ロゴの飛行船が会場を飛んだこともあったが、これもまた、労力の割に盛り上がらなかった。コストという点で言えば、1、2曲のためにオーケストラを入れた年もあり。このあたりも矢沢らしいといえば、らしい。

さて、このライブでジワリときたのは、アンコール時のMCだ。永ちゃんはいつも「帰りに最高に美味いビール飲んで帰ってください」という。飲酒入場禁止ということもあり、これはありがたい言葉である。この日は「できれば、サントリーにしようぜ」というコメント付き。これには会場が湧いた。スポンサーに言わされたセリフという感じはまったくせず。長年のサントリーとの良好な関係、積み重ねてきた信頼を感じた。

その影響もあってか、東京ドーム敷地内にあるエビスのバーはガラガラだった。会場を後にするファンたちも「さすがに入りづらい」と語っていた。水道橋付近の飲み屋は、矢沢のプレモルポスターを持って顧客獲得のために営業していた。店は矢沢詣帰りの客だらけ。店内や水道橋駅でも自然に永ちゃんコールが発生していた。

永ちゃんは、これからも新しいチャレンジを続けるだろう。来年は、今まで見たこともない70代日本人ミュージシャンになることが確定している。永ちゃんには届かないが、私も一生懸命生きようと思ったよ。ありがとう。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。