”Mr. Nagashima Goes to Finland”
私の大好きな映画に『スミス都へ行く』(”Mr. Smith Goes to Washington” 1939年アメリカ)があります。地方から出てきた、ど素人の新人議員が首都ワシントンの悪と闘い正義を貫くというごく単純なストーリーですが、スミス氏がワシントンで初めて見るもの・聞くものに驚き感動する様子は、今回の私のフィンランド視察と重なるものがありました。
昨日は、この視察のハイライトでもあるネウボラを訪問しました。写真は待合室。フィンランドとムスリムの男児が仲良く遊んでました。ここは、出産・子ども・家族ネウボラが統合されたヘルシンキでも最新の施設。地下鉄の駅上、ショッピングモール隣接の利便性が子育て家族にとり最適のアクセスを確保。 pic.twitter.com/LVzz8kwv1j
— 長島昭久 (@nagashima21) 2018年9月14日
「ネウボラ」はフィンランド国民共通の“3つの理念”に支えられている
今回の視察の第一の目的は、「ネウボラ」の現場を実際に見聞することでした。
★ネウボラ:妊娠期から小学校へ上がるまでの子どもとその親を含む家族全体の健康と生活を守るため、かかりつけの保健師(助産師)が責任をもって切れ目のない支援につなげる制度。
もちろん、予想通り、ネウボラという制度、それを支える人材、その人材をサポートする地域の仕組み、どれをとっても今すぐ日本が学ばねばならないものばかりでした。ところが、それ以上に勉強になったのは、ネウボラを生み出したフィンランド建国(独立)の理念です。
すなわち、1917年にロシアから独立を果たしたフィンランドが、貧しい中から国の将来を担う貴重な人材を大切に育てるためにつくり上げた「国民的合意」の素晴らしさです。今回の視察における最大の収穫は、ネウボラ制度の根底に次のようなフィンランド国民の確固たる理念が横たわっていることが確認できたことです。
その1:母親は、育児の負担を分かち合う他者の助けを常に必要としている
第一に、「母親は、育児の負担を分かち合う他者の助けを“常に”必要としている」という紛れもない真実の社会的共有です。日本では、子育てはとかく各家庭の「自己責任」で片付けられてきました。ですから、少子化が叫ばれ始めて20年経った今日でも、待機児童は解消されず、仕事と育児の両立は難しく、ひとり親家庭の貧困は先進国中最悪の状態なのです。こんなにも「子育て」にとって劣悪な環境が放置されてきたことに対し、私自身を含め、政治家は恥じ入るべきです。
これに対し、「世界一子育てしやすい国」フィンランドでは、子どもを産む母体である母親が必要と感じているあらゆる支援を惜しむことなく社会全体で用意し、ほぼ無償で提供しているのです。その中核がネウボラなのです。ネウボラおばさん(保健師および助産師)が、親子の健康から家族関係、生活環境の隅々まで目を光らせ、早期に問題点を発見し、多機関連携に基づく適時適切な福祉的、医療的支援へとつなげていくというものです。
その2:「3歳までは子どもを家庭で育てられる」という選択肢を用意
フィンランド国民の間で広く共有されている第二の理念は、「子どもは、なるべく3歳までは家庭で育てる」というものです。欧米の文化では共働きは当たり前で、親が家庭で子どもを育てる習慣は希薄ではないかと思われがちですが、少なくともフィンランドでは、多種多様な子育て政策によって、3歳までは無理なく家庭で子育てができるような現実的な「選択肢」が用意されているのです。
たとえば、両親で合計263日間の出産休業制度、母親手当、子どもが3歳になるまでの在宅育児手当、育児休業制度、所得制限なしの児童手当(0-16歳全員が対象で、子どもが増えるごとに加算)、3歳未満と小学1-2年次に親の労働時間を短縮できる部分的ケア手当、などなど。もちろん、保育サービス(幼保一体)も待機児童ゼロ。
その3:子育て支援は、「良き納税者」を育てるため
このような一見「財源度外視」とも思える手厚い子育て支援を可能にしているのは、「良き納税者を育てよう」とのフィンランド社会の根底を流れる立国の哲学なのです。すなわち、ネウボラの制度目的である「早期発見・早期支援」の背景にある考え方は、子ども達の成育上の課題を早期に発見し、早期に治療・対処すれば、将来(特別な福祉や医療などを通じて)税金を使う側ではなく、健全な納税者をより多く育てることができる、というリアリズムに基づく「立国の理念」があるのです。
フィンランドでは、ロシアからの独立直後、非常に貧しい時代に国家の独立と安定的な発展のために、男女を問わず猛烈に働かねばなりませんでした。そのため、家庭に残された子どもたちへの支援施策が不可欠となったのです。したがって、次世代の良き国民、良き納税者に育て上げることが立国の本旨であるとの国民的合意が形成されていったというのです。
以来約100年、高齢者を含むすべての世代で「子ども投資立国」の理念は浸透し、現にその投資のおかげで今日があるとの実感が社会で広く共有されることとなったのです。
フィンランドに「子育て政策か、高齢者福祉か?」の対立軸はない
したがって、日本でよくある「子育て政策か、高齢者福祉か?」という対立軸は生まれません。フィンランドの子育て支援は、子ども達が可哀想だからという慈悲心の表れでもなく、「未来への投資」などという抽象論でもない。現実的な国家戦略に基づいて、子育て支援に徹底的な政策と予算を注ぎ込んできたのです。
この点は、じつは明石市の泉房穂市長の「子育て支援は貧困対策でも弱者救済策でもない。まさしく地方創生戦略なのだ」という哲学と相通ずるものがあるのではないでしょうか。つまり、そのような世代を超えた国民的合意の上にフィンランドのネウボラ制度があるのです。この点をしっかりと踏まえた上で、私は、これから同志の皆さんと共に、日本版ネウボラを中核とした包括的な子育て支援政策の実現に全力を傾けてまいります。
親子の状況を毎日確認(必要なら適宜面談も)できる保育園(基本的に幼保一体)の方がリスク家庭に関する情報は適時的確であることを改めて認識させられた。従って、就学前の子どもの発達状況や親子関係の課題などについては、ネウボラと保育園との間の情報共有が不可欠で、フィンランドでも進行中。 pic.twitter.com/h1dta6B7nN
— 長島昭久 (@nagashima21) 2018年9月14日
編集部より:この記事は、元防衛副大臣、衆議院議員の長島昭久氏(東京21区、無所属)のオフィシャルブログ 2018年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は長島昭久 WeBLOG『翔ぶが如く』をご覧ください。