沖縄知事選挙がクライマックスを迎えている沖縄を訪れた。いっときは、ダブルスコアで玉城デニーが先行しているという世論調査もあったが、佐喜眞淳が組織を総動員して差を詰め、差は数パーセントという調査が多いようで、現地は緊迫している。
土曜日には、デニー玉城の1万人集会というのが開かれ、主催者発表で8000人というから、その半数程度か。街頭では本土からの応援団も含めて偽リベラル極左色が全開だが、那覇市民が参加者の主体ということもあって、翁長追悼ムードに沿った構成。
玉城デニーとともに、翁長知事の「公開されない録音テープ」で指名された金秀グループの呉屋守將会長が登場。あのテープが存在するかどうかも不明だが、呉屋氏を玉城デニーの応援をさせるためには役立つお膳立てだったのは確か。
呉屋氏は、基地がなくなれば経済はよくなると沖縄経済は所得倍増して前途洋々と大風呂敷。たしかに、那覇周辺はアベノミクスの恩恵でこのところ地価上昇が目立ち、まったく見当はずれでないが、沖縄全体に当てはまる話ではない。このあたり、那覇では、玉城デニーが有利の原因か。
18歳の少女なども登場して、やや、若々しい意見と言うよりは、年寄りに言われたことはもっともだと思うというような調子で、ややあぞといが、これは池上彰氏の番組と違って、有権者だから印象というだけ。
玉城デニーはラジオパーソナリティ出身だけあって、しゃべりは抜群だし、ハーフタレントのように格好いいし、品格も悪くなく、政策的なことについては、良くも悪くも空っぽだが、いちおうもっともらしい。
続いて、集会の最後に登場した翁長樹子夫人は、保守政治家の夫人とは思えない激しい言葉が並んだ。
「今回は静かに見ていよう。県民が出す結論を待とうと思っていたが、日本政府のやり方があまりにひどい。政府の権力をすべて行使して私たち県民を愚弄する。民意を押し潰そうとする」
「こんな風に(選挙戦に)出てくることには躊躇がありました。でも翁長が『しょうがないな。みんなで頑張らないといけないから君も頑張って』と言ってくれているようでここに立っています」
「県民の心に1ミリも寄り添おうとしない相手の佐喜眞候補を指す)に悪いけど、私は譲りたくありません。ウチの人の心をデニーさんが継いでくれるのかと思ったら涙が止まりませんでした。残り1週間、マグマを噴出させてでも必ず勝利を勝ち取りましょう」。
出席者からは盛んに、「イデオロギーよりアイデンティティ」という言葉が並んだが、それは、もっぱら、ヤマトに対するアイデンティティらしい。彼らは、しばしば、中国が彼らのアイデンティティを吹き飛ばす最大の脅威だということの危険性は無視する。
移民禁止の海禁政策を取っていた明も、島津も、明治日本も、アメリカも、沖縄の人々を支配したが、大量に移民してきて、乗っ取ってしまうようなことはなかった。しかし、いまの中国は違う。
移民、難民、それから、日本に帰化した華人などいろんなかたちで入り込んできて、沖縄の意思決定に影響を及ぼすような数になったり、さらに、多数派になったりしたら、ウチナチュウは本土に移るしかなくなりかねない。(そのあたりは、『中国と日本がわかる最強の中国史』 (扶桑社新書) や「蓮舫『二重国籍』のデタラメ(飛鳥新社)」で紹介した)。
そういう可能性があるのは、東南アジアをみれば分かることだ。発展する中国との交流は沖縄にとって希望だ。しかし、中国からのアイデンティティを確保しようとすれば、状況を緻密にコントロールできるシステムが必要だろう。
いま那覇の空港から、市内へ向かう道路には、那覇市長時代の翁長雄志が反対を押し切って日本政府の補助金でつくった巨大な中国製の「龍柱」がそびえている。悪い予感がする。