今回の地震とそれに引き続いた「ブラックアウト」はそこに暮らすわたしたち北海道人の生存条件を大きく揺るがしています。わたしどもは地域住宅雑誌として「性能とデザイン」を追究する姿勢で雑誌を発行してきましたが、住宅はなによりも生きる安全保障のベースであると思います。そのため、寒冷地・北海道では住宅性能要件がきわめて重大という認識で多少とも啓蒙に役立つようにと考えながら、出版とWEB事業に取り組んできています。
今回の事態は、地震被害もさることながらより根源的には電気エネルギーが途絶えてしまえば、経済もなにも動かないし、生存条件もきわめて危ういということを完膚なきまでに北海道民に知らせたと思います。わが家の場合40数時間で停電が解消されたのですが、地震の被害はほとんど無いのにもかかわらず、電気がないのでまったく仕事が出来なくなってしまった。停電はこの程度で済んだのですが、結果として北海道の経済活動は大きく毀損したことは申すまでもありません。被害は多方面に及ぶことが不安視されます。
そういうなかで毎日新聞の記者による「記者の目北海道大停電 原発依存が招いた“人災”=筑井直樹(夕刊編集部)」という記事が目に付いた。記者さんは札幌に家族を残して東京に単身赴任しているようでした。
で、論旨としてはひたすら北海道電力の経営責任を論難追究するもので、「だからといって泊原発の例外的な再稼働はあってはならない。」と論拠を示さずに断定している。それでは寒冷時期にブラックアウトが再来したらどうするかについては、「このまま冬を乗り越えるのはかなり厳しいだろう。」と書きながら「わたしたちも電気の大量消費を前提とした生活を見直す必要があるが、北電は電源の多様化や発電所立地の分散化に限りある経営資源を投じるべきだ。」と上から目線で高説を垂れている。
節電に耐えるのはいいけれど、北電の新たな経営改革でこの冬、直近の北海道の暖房危機は乗り越えられるわけもない。こういう記事が原発反対の人たちの多数意見であるならば、もう絶望しかないと言わざるを得ない。ぜひ北海道に戻って来てもらって、いっしょにブラックアウトで無暖房の極寒期数日間を過ごしたいと思う。死人が出るまで、いや多少の死者くらいでは反原発原理主義者には聞く耳はないのだろうと深く絶望させられた。
しかし、こういう原理主義者たちは事実上いまの日本のエネルギー政策を「決定」している。少しでも原発利用論を言えば、ファシストのように攻撃を仕掛けてくる。だから誰もそのリスクを危惧して声を挙げなくなっている。
そういうことならば別の手段をと建築関係者と論議した結果、北海道全戸約295万戸に太陽光発電1kw相当と蓄電装置をセットにして、公共事業として設置配布を推進してもらえないかと思い至った。1kwでは不足ともいえるけれど、それで暖房器の起動電力がまかなえるので、最低限の「生存保障」が可能になると思われるのです。
太陽光発電装置を導入した住宅のコストはFITで事実上、すべての電気ユーザーが等しく負担してきているけれど、その累計額でも結構な数字になる。それはそれでいいけれど、冬場の生存条件を同じ国民として等しく担保する意味で寒冷地、とくに電源構成にいま原発がない北海道では、こういう安全保障策があってもいいのではないか。こちらの方がより民主的な利用使途ではないだろうか。これならば、反原発に考えが凝り固まった人たちも同意可能なのではないかと思う次第です。
コスト的な問題は大いに国会議員さんたちに頭を絞ってもらいたい。これは現実に電気を発電するので、長期に「売電」していけば計算は可能だろう。また、大量発注メリットでコストダウンも見通せる。たぶん、こういった国民的合意可能な施策が、自然エネルギーへの転換の大きなきっかけを作るように思う。
この施策には当然相当年数が掛かることが想定されるけれど、その間についてはやはり現実的に泊原発を稼働させるべきでしょう。原発を放棄すると宣言したドイツでも、それまでの間は利用するという現実主義を取ってきている。原理主義からはなにも生まれない。賢く現実をみつめ、この暖房危機を突破させたいと切に願っています。
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三木 奎吾(みき けいご)1952年北海道生まれ。広告の仕事をへて1982年独立。地域住宅雑誌「Replan」編集発行の(株)札促社代表取締役。
アゴラでは、実際に“日本初のブラックアウト”を体験された北海道民の皆様の率直な思いをお尋ねしています。
大停電のあとどのような影響が身近に出ているか?
原発とどう向き合っていくべきか?
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安倍政権のエネルギー政策
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