沖縄県知事選挙:なぜ期日前投票が伸びているのか

堀江 和博

大接戦の沖縄県知事選挙で「期日前投票(きじつぜんとうひょう)」が驚異的に伸びている。沖縄県選挙管理委員会の発表によると9月23日(日)終了時点で、選挙人名簿登録者数115万8569人のうち「8.2%」に相当する9万5143人が投票を済ませたとのこと(産経ニュース2018年9月24日)。前回知事選の同一時期が4万8270人だったので、なんと75%も期日前投票率が伸びた計算になる。

利用が年々上昇していることは全国的な傾向ではあるが、それを抜きにしても驚異的な数字である。なぜ、今回の知事選挙で利用が増えているのか。それは、近年、期日前投票が「選挙戦略として」大いに活用されるようになったことが背景にある。

不在者投票と期日前投票

従来の「不在者投票制度」は、例えば病院や老人ホームにいる等の理由で直接投票できない方に定められたもので、大正14年(1925年)の法改正が起源となっている。別地域の選挙管理委員会や指定の病院や老人ホームなどで投票用紙を記入し封筒に入れ、その後投票管理人がしかるべき投票所で投票をするという流れだ。しかしこの制度は長らくその条件が厳しいものであったため、投票率向上に貢献するには至らなかった。

そこで、平成15年(2003年)の公職選挙法改正により、現在の「期日前投票」が設けられた。仕事や病気はもちろんレジャーや天候、その他理由であっても、入場券を持参しなくても身分証明できるものがあれば、簡単に投票することができる。駅や大学、ショッピングセンターなどにも投票所が設置されることもあり、年々利用が増えた。昨年の衆議院総選挙では全有権者の約2割がこの制度を利用している(過去最高記録)。

その結果「毎日が投票日」となる

便利になった期日前投票であるが、選挙対策本部にとっては、選挙期間中「毎日が投票日」となったことを意味している。つまり、今までは知事選挙17日間の場合、途中心変わりがあったとしても、投票日に有権者に「〇〇候補に投票しよう」と思ってもらえればいいわけで、選対本部としては選挙戦終盤にかけてピークをもっていく戦略を立てていればよかった。

しかし「毎日が投票日」となったおかげで、序盤から熱心な選挙活動を行い、心変わりをする前に積極的に働きかけて、期日前投票を促進する戦略を採用せざるを得なくなった。この「早期の票固め」を目的にした期日前投票促進戦略は、選挙期間が長い衆議院総選挙(12日間)や参議院選挙(17日間)などで、今では各党積極的に採用している戦略である。

ネット選挙解禁の影響

この期日前投票増加の背景には、平成25年(2013年)第23回参議院選挙にて「インターネットによる選挙活動」が解禁されたことも影響したと思われる。そもそも、期日前投票の利用者の多くは20~50代の「現役世代」である。高齢者の多くは「選挙は投票日に行く」習慣が染みついている一方、現役世代は、仕事や趣味、家庭サービスなどで日曜日に投票に行く時間を確保できないことも多く、その場合、期日前投票を利用するしかない。

そして、この世代はPCやスマートフォンを日常的に使用している。そのため、この世代にアクセスする手段としては、ネットやSNSが有効なツールとなる。今回の沖縄県知事選挙においても、LINEの活用が重要な選挙ツールとして用いられており( 参照:『沖縄知事選、LINEの選挙フル活用が当たり前に』 )、候補者の「LINE@」には「早めの期日前投票を!」という文字入りの画像が大々的に告知、拡散されている。まさに、期日前投票への「ニーズ」と、インターネットという「ツール」の相乗効果で活用されてきたわけだ。

期日前投票はさらに増えそうだ

今回の選挙においては、両陣営それぞれネットやSNSを積極的に活用しているとともに、大激戦であるが故に、組織票固めを目的とした期日前投票の促進を徹底的に行っているようだ。それが利用数の上昇を引き起こしている。そして、今週末には台風が沖縄を直撃する見込みであることから、選挙戦終盤にかけて期日前投票が相当加速する見込みである。台風がどちらの候補に利することになるかは不明だが、選挙戦略上、「期日前投票」が重要な位置を占める選挙となったことは間違いなさそうである。