クレジットカードの手数料は下がればよいというものではない

有地 浩

クレジットカードの手数料は高い。このことが、クレジットカード決済を中小の商店等へ普及させる妨げとなっていることは、以前書いたとおりだ。しかしそれなら手数料を引き下げればよいかというと、単純にそうとばかりは言えないところが難しい。

インターチェンジ・フィー引き下げという難問

クレジットカードの加盟店が支払う手数料のうち最大の部分は、イシュアーと呼ばれるクレジットカードを発行した会社の取り分で、インターチェンジ・フィーと呼ばれている。

これが2000年頃からいくつかの国で批判にさらされ、規制当局が動くことになった。オーストラリアでは2008年に上限が0.55%に抑えられ、EUでも2015年に、上限0.3%と大変厳しい規制が設けられた。またカナダでは、VISAとMasterの自主規制という形で手数料の引き下げが約束された。

批判の理由は主として、クレジットカード会社が結託して手数料を高めに設定し、消費者の利益を損ねているという、独占禁止法的観点からのものと、手数料が非公表だったり、手数料の決め方の説明が全くないという透明性の観点からのものだ。

たしかに、インターチェンジ・フィーはVISAやMasterといった国際ブランドが国別、カード種類別に指定しており、現在でもEUやアメリカなど一部の地域を除いては、一般の消費者や加盟店がその内容を知ることはできない。また、その率は国によって相当な開きがあるが、違いの合理的な説明ができないという批判もある。

日本の場合も、インターチェンジ・フィーは非公表となっているが、本年4月に経産省が発表したキャッシュレス・ビジョンという資料の中では、2.3%という数値が例示されているので、大体この程度のレベルの手数料になっているのだろう。

こうした中で今年7月になって韓国の中小企業大臣が、中小企業のクレジットカード手数料の負担を軽減するため、新たな低コストの取引システムを検討すると述べた。この発言内容はあいまいで、これがインターチェンジ・フィーの上限規制を示唆するものかどうかは定かではないが、業界では「ついにアジアでもインターチェンジ・フィー規制が始まるのか」と戦々恐々として受け止められている。

このように世界的にインターチェンジ・フィーに対する風当たりが強まってきているが、最初にも言った通り、ことはそう簡単ではない。

確かに加盟店の手数料負担が軽減される分、加盟店開拓が容易になることはインターチェンジ・フィー規制のメリットだ。しかし、既に規制を導入した国の経験では、手数料が下がった分だけ加盟店の販売するモノやサービスの価格が下がった訳ではなく、加盟店の収益を助けただけだという批判が出ている。

また、インターチェンジ・フィーはカード会社の重要な収益源であり、ここからカード発行のコスト、不良債権処理、ポイントの付与やキャンペーンの費用などを捻出しているため、手数料抑制後はクレジットカード保有者の年会費を引き上げたり、カード利用に対するポイント等の付与が以前より減らされたりした。

このため仮に日本でインターチェンジ・フィーを下げることになると、クレジットカードを使ってもあまりメリットが感じられないとか、年会費が高いのでクレジットカードを持ちたくないという人が増える恐れがあり、これではキャッシュレス化に逆行してしまう。

クレジットカードの高い手数料の引き下げは容易ではない。やはり日本のキャッシュレス化の主役はクレジットカードではないのだろう。