先日、鶯谷で悲しい事件が起きました。
ロッカーに乳児遺棄容疑「捨てられなくて4、5年保管」(朝日新聞デジタル)
乳児の遺体をコインロッカーに捨てたとして、警視庁下谷署は25日、自称住居不定、無職須崎江美梨容疑者(49)を死体遺棄容疑で逮捕し、発表した。「生きて生まれてこなくてパニックになった。捨てられなくて4、5年前からコインロッカーに保管していた」と供述しているという。
署によると、須崎容疑者は9月13日ごろ、東京都台東区のJR鶯谷駅近くのコインロッカーに、乳児の遺体を捨てた疑いがある。乳児は身長約40センチで、ポリ袋に包まれていた。ロッカー料金の支払い状況から、少なくとも13日からは遺棄していたと判断したという。腐敗が進んでおり、死因や性別は不明という。須崎容疑者は24日午前11時ごろ、警視庁に自首した。
コインロッカーは24時間ごとに200円課金され、未払い金額が1千円を超えると管理業者が内部を確認する仕組み。須崎容疑者は「代金を払い続けていた」と話しているという。
ネットでは母親を責める声が多数聞かれましたが、僕は複雑な気分でした。
ホテルで出産し、捨てずにロッカーに入れて数年間お金を払い続けていた、実母の心理と彼女を取り巻いているだろう過酷な環境を思うと、軽々に責めることなどできません。
私たちが行なっている特別養子縁組事業が、彼女のような状況にある人たちに届くことを、いや届かせるように努力しなくては、と改めて思ったのでした。
それと同時に、アフターピルを巡る社会環境も変わらなくては、と感じたのです。
というのも、こうした生まれたばかりの子を殺害してしまうのは、虐待死の中で珍しいことではなく、むしろ「メジャー」なことだからです。
その理由の多くは、「望まない妊娠」「予期せぬ妊娠」。
「望まない妊娠」を予防することが、虐待死の予防へと繋がっていきます。
アフターピルとは
「望まない妊娠」を防ぐためには、アフターピルが効果的です。
アフターピルは緊急避妊薬で、性交渉後72時間以内に服用することで、妊娠を防ぐことができます。
医師の処方が必要で、産婦人科や内科等で診察を受けてから、もらえる薬です。
コンドームが破けてしまった。性犯罪に遭ってしまった等、妊娠が心配される場合には、非常に心強い存在です。
日本におけるアフターピルの課題
しかし、課題もあります。
アフターピルを提供している東京のナビタスクリニックの久住医師に聞いてみました。
駒崎:「アフターピルがもっともっと広がれば良いと思うのですが、あまり日常的には聞きませんよね?手に入れづらいのではないでしょうか?」
久住医師:「はい、そうなんです。まず医師が処方しないといけない、というのは高いハードルです。病院は日曜祝日はお休みです。また、地方では産婦人科に行って知り合いに会いたくない、ということもあったり、説教をする産婦人科医もいたりします。」
駒崎:「ハードル高いですね・・・。」
久住医師:「はい、よって私のナビタスクリニックでは、オンライン処方を始めました。少しでもハードルを下げるために」
駒崎:「値段はどうなのでしょうか?保険は効きますか?」
久住医師:「保険外処方となり、値段は1〜3万円となっています。若者には購入しづらい値段になっています」
海外では手に入りやすいアフターピル
こんな大事な薬なのに、手に入りづらいなんて・・・。外国ではどうなんだろうか、と日本の性教育に詳しい、NPO法人ピルコンの染矢代表に聞きました。
染矢さん:「諸外国では、軒並み薬局手に入るようになっています。値段も5000円以下のところが多く、国によっては若者に無料で配っているところもあります」
駒崎:「そう考えると、日本はアフターピル後進国ですね。なぜ日本では薬局で買えないんでしょうか?」
染矢:「厚労省は昨年2017年にOTC(医師による処方箋が必要なく、薬局・ドラッグストアで買える一般用医薬品)化を検討。パブリックコメントは348件中、賛成が320件、反対はわずか28件という圧倒的な世論の支持を受けたにも関わらず、検討委員会での「薬局で薬剤師が説明するのが困難」、「安易な使用が広がる」などの懸念からOTC化は不可となりました。」
駒崎:「それってパブコメの意味ないですよね。しかも『安易な使用が広がる』って、『性教育したらセックスしまくるようになる』みたいな言説と同じトーンですよね。女性の身を守る手段を増やす、選択肢を増やす、ということをすると、モラルが乱れる、みたいな話にすり替えられる構図が・・・」
染矢:「避妊ならコンドームがあるだろうという人がいますが、コンドームの年間失敗率は2割程あり、だからこそアフターピルが必要です。また、ピルや避妊についての正しい知識を学ぶ性教育の充実も両輪として必要だと思います。」
アフターピルのOTC化を求めた署名キャンペーンが始まる
この状況を打開するために、インタビューにも協力して下さったピルコン染矢さんが音頭を取って、ネット署名キャンペーンを始めてくれました。
アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!
我々ができることは、こうした署名を広げ、厚労省に世論の広がりを認識してもらうことでしょう。
望まない妊娠を防ぐために、女性の身を女性自身が守るために、社会が機会を奪ってはならないのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年10月2日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。