中国の習近平国家主席が提案した中国から欧州、アフリカを連結した新シルクロード構想(一帯一路)が暗礁に乗り上げてきた。その象徴的な出来事が明らかになった。アフリカ最貧国シエラレオネが10日、中国から4億ドルの融資を受けて新空港建設するプロジェクトを破棄すると発表したのだ。
理由は「自国の経済規模を超える融資を受けても返還できず、最終的には債務不履行(デフォルト)に陥る危険性が高いからだ」。以下、海外中国メディア「大紀元」(10月11日付)の記事「アフリカ最貧国シエラレオネ新政権、中国融資でも新空港建設を拒否」の概要を紹介する。
今年4月に就任したシエラレオネのジュリアス・マダ・ビオ大統領は「首都フリータウンに新たな空港を建設する必要性がない」と判断したという。フリータウンの新空港建設案は、前政権アーネスト・バイ・コロマ前大統領が3月の政権交代前に、中国との融資契約を結んだものだ。経済的効果を慎重に検討せずに締結したものだという。
大紀元は「中国は、連携国へのインフラ整備事業『一帯一路』構想に基づき、アジアやアフリカの途上国に高額な融資をして、政治的影響力を拡大している。資金は中国政府系ファンドが融資し、労働者や建設事業は中国が請け負う。現地経済に寄与するものが少なく、現地権力者らの腐敗を生み出すとして“債務トラップ外交”と呼ばれている」と解説している。
マレーシアのマハティール・モハマド首相は8月、政権復帰早々220億ドル相当の中国支援のインフラ計画の中止を発表している、その理由もシエラレオネの場合と似ている。マハティール首相は、「同計画はマレーシアには必要ない。高額な債務を押しつけないように」と中国共産党政権に警告を発しているほどだ。
シエラレオネやマレーシアは巨額の債務を抱える前に再考し中国からの融資を断ったが、中国の融資を受けたために、債務危機に陥っている国としてはスリランカが挙げられる。
スリランカのマヒンダ・ラジャパクサ政権は中国から数十億ドルの融資と支援を受け入れた。また、インド洋の重要戦略港湾ハンバントータ港の運営権を、中国に「99年契約」で明け渡した。さらに大規模な埋め立て工事を伴う新港湾コロンボ港も建設中、といった具合だ、中国からの巨額の融資を受けたスリランカは撤退するのが遅すぎ、身動きができなくなってきている。
思い出してほしい。今年9月3日、4日の両日、中国北京で経済連携の深化を目指す「中国・アフリカ協力フォーラム」が華々しく開幕した。習近平国家主席はオープニングスピーチで、「今後600億ドルの金融支援をアフリカ諸国に行う」と表明し、世界を驚かせたばかりだ。
国際通貨基金(IMF)が今年4月発表した調査報告書で、アフリカの低収入国家のうち、4割が借金地獄に陥っているという。中国からの巨額の融資はそれらの国を一層、債務不履行状況に陥らせることは火を見るよりも明らかだ。
IMFによると、昨年末の段階でチャド、エリトリア、モザンビーク、コンゴ、南スーダン、ジンバブエなどは既に債務返済が出来なくなり、ザンビアとエチオピアは負債増加でリスクが高まっているという。
アフリカ東部に位置するジブチに中国は約14億ドルの融資を行った。同国のGDPの約75%に相当する。また、中国は過去2年間でアンゴラに190億ドルの融資を行っている、といった具合だ。
ちなみに、中国がアフリカ諸国に巨額の資金を提供する狙いの一つは、台湾を国際社会から孤立させるためだ。中国マネーを手に入れた台湾の友好国は近年、次々と台湾と断交し、中国当局との国交を樹立した。今年9月4日現在、台湾と国交を持つアフリカ国はスワジランドだけとなった。
以上、「大紀元」の記事を参考にまとめた。
今回の焦点は、“アフリカ最貧国シエラレオネ”が中国の融資話を拒否した、という点に尽きるだろう。アフリカの最貧国にとって中国からの巨額の投資は喉から手が出るほど魅力だろう。その国が中国の投資、融資を断ったのだ。世界も驚いたが、オファーを出した中国側はびっくり仰天といった状況だろう。
中国の、中国による、中国のための融資、投資支援が自国の経済的繁栄をもたらさないばかりか、国民経済を一層悪化させることにアフリカ指導者たちが目を覚ましてきたのだ。
当方は大紀元の記事を読んで「習近平国家主席の『一帯一路』構想はその覇権主義的政策を放棄しない限り、成果をもたらすことがないだろう」と強く感じた。
中国指導者は毎年、アフリカ諸国を訪問する。そして国際社会に向かって「アフリカはわが国の勢力圏」と豪語してきたが、そのアフリカ諸国の中に“中国離れ”の傾向がみえてきたのだ。もはや巨額の融資や投資では“イエス”と言わない賢いアフリカ指導者が出てきたのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。