日本の農業問題は外国人研修生が来ても解決できない理由

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
※Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

最近は英語ビジネスに力を入れていて、すっかり農業の記事配信がご無沙汰となっていました。

さて、私はフルーツギフトショップを運営している「農業関係ビジネス」をしている身です。先日、その問題を肌身で感じる体験がありましたので、今回は日本の農業問題を取り上げたいと思います。

外国人研修生は20年で7.5倍に増加

今、農業の現場はどんどん外国人研修生が増えています。否、外国人研修生がいなければ農業は成り立たないほどの依存状態と言ってもいいかもしれません。国勢調査によると、1995年2,800人だった外国人研修生は、直近の2015年では21,000人。この20年間で7.5倍にもなるペースで増加しているのです。

私もフルーツの仕入れや品質について農家さんの元を訪れてコミュニケーションをする機会があります。その際に、どの生産者の農園にも多くの外国人研修生の姿を見ることがあって、驚かされます。

彼らの国籍も実に多様であり、カンボジア、中国、ベトナム、パキスタンと様々です。そして、外国人研修生と話をすると、「農業を勉強したくて日本に来た」といいます。

どの農家さんも深刻な後継者不足、高齢化が問題となっています。彼ら、外国人研修生は大変貴重な若い労働力なのです。

外国人研修生を抱える生産者の悩みとは?

農業は自然が相手で、IT化ができていない部分がまだまだあります。生産や収穫などはどうしても人手が必要な労働集約型産業の筆頭です。そんな農業は一部の生産者を除いて、もう外国人研修生がいなければ成り立たないほどの状態になっている、それが日本の農業の現状なのです。

そして外国人研修生は一応、「日本語の勉強をした上で来日しているので、最低限のコミュニケーションは取れる」という名目になって派遣されています。しかし、その実態は異なるものです。私は実際に彼らと話をして、「コンニチハ」「アリガトウ」は言えるものの、その他の言葉はほとんど分からず、一年以上日本で農業の仕事をやっているケースを多く見てきました。

実は先日も、コメ農家さんとやり取りをする機会があったのですが、お米の荷降ろしをしたのはフィリピンから来た若い女性です。彼女への指示はすべてジェスチャー、彼女が話せるのはタガログ語と英語のみ、日本語はほぼまったくできませんでした。

写真は筆者撮影。米袋の荷降ろしをする高齢のコメ農家と、フィリピンから来た研修生

そんな外国人研修生を抱える農家さんは、英語ができなければ彼らへの細かい指示を出すことができません。それでも彼らがいなければ仕事が成り立たない、そんな状況にあるわけです。日本人の作業者は60代、時には70代といった高齢者で仕事をしている農家さんもいて、20代、30代の若い外国人研修生の存在は多少の言葉や文化の壁があったとしても頼らざるを得ないのです。

メロンをやめてほうれん草へ

NHKニュースおはよう日本「外国人への“依存”で農業が変わる」の番組では、「メロンをやめ、ほうれん草へ転換」という事例を取り上げていました。なぜ、長年メロンを生産していたのに、ほうれん草農家へなったのか?その理由は彼らへのお給料の支払事情です。

農家は家族経営が多く、利益は家族でシェアをする形態が多いのです。しかし、外国人研修生が労働力となると、お給料を毎月支払をしなければいけません。そうなると当然、毎月のお給料を支払いする枠を確保しなければならなくなります。

番組で取り上げられていたメロン農家は収穫が年2回で、収入もまとめて入ってくることになります。しかし、収穫期以外は収入が途絶えてしまいます。そこでメロンの生産を辞めてしまい、収穫時期をずらしながら年中収入源を得られる、ほうれん草などの葉物野菜に転換したというのです。

そうなるとスイカ、メロン、ミカンといった収穫時期が限られるフルーツ農家は大きな影響を受けます。ハウス栽培でスイカやメロンを冬に栽培する農家さんもいますが、それは少数派です。この3フルーツは年々生産量が右肩下がりになっていて、ミカンについていえば多くの人の記憶に新しいかと思うのですが大変な不作になってしまったことで、価格高騰が問題なりました。ますます、今後はこの問題が顕在化していくでしょう。

外国人研修生に強い依存状態にあっても、こうした問題は依然として存在するのです。我が国の農業問題は労働力を外国から得たとしても解消されるものではないのです。

農業のIT化が最後の切り札

私はこのトレンドを変えるのはITしかないと思っています。これについては反対意見も多いのですが、それでもこれしかないと個人的には考えています。

いまや日本全体で働き方改革を打ち出し、これから突入する未曾有の人口減少社会、労働力減少問題に備えて、改革案が叫ばれています。そんな中、農業は日本の主要産業としての扱いを受けないでしょうから、今後はさらに問題が深刻化していくでしょう。

場合によっては日本は農業が立ち行かなくなる可能性もあります。働き方改革の根本原因となっている、少子高齢化は数十年かけてゆっくりと問題が進行した緩慢なものでしたので、その解消速度も極めて緩慢にしか進みません。

そうなるともうIT化することでしか問題と向き合うことはできないでしょう。この現状を打破するのは人ではなくテクノロジーの方なのです。オランダは米国に次ぐ農産物輸出額世界第2位の位置にあり、農業がドル箱となっています。オランダはITを駆使したアグリビジネスに力を入れており、我が国もそれを実現するだけのテクノロジーはあります。

必要なのは問題の認識であると強く感じます。私はその問題提起のためにこの記事を書いているのです。

今を生きるすべての日本人の双肩にはこの問題と向き合い、解決に向けて動き出す責務が託されているのではないでしょうか。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。