ロシアとトルコが去った後、米国債保有の主要国リストに新顔

8月対米証券投資は、1,318億ドルの買い越しとなった。前月の667億ドル(修正値)を含め、2ヵ月連続での資金流入となる。民間が700億ドル買い越し2ヵ月連続で流入し、海外中銀を含む公的機関は72億ドル買い越し、4ヵ月ぶりに流入に転じた。海外投資家の米国債投資は631.3億ドルの買い越しと前月の189.4億ドルを超え、2015年6月以来で最大となる。民間が552億ドル買い越し2ヵ月連続の資金流入となったほか、海外の公的機関は79億ドル買い越し、5ヵ月ぶりに流入した。

期間中、トランプ政権は通商301条を根拠に500億ドルの対中追加関税を発表、7月6日に第1弾として340億ドル、8月23日に第2弾として160億ドル踏み切った。中国も同等の措置を講じるなか、9月には2,000億ドルへ拡大する方針を表明。中国も600億ドルの追加的報復措置を取る構えをみせ、米中間で通商上の緊張が高まった。その間、NAFTA再交渉で米国がメキシコと合意するなど、欧州に続き貿易摩擦が後退する場面もみられた、米10年債利回りは月初に約3ヵ月ぶりに3.0%台に乗せたが、月末にかけ2.81%へ低下した。

国別での米国債保有高トップ5動向は、前月に続き以下の通り。ただし、順位は入れ替わり、ブラジルが再びアイルランドを抜いて3位に浮上した。なおアイルランドは租税回避地として知られ、米国のIT企業や製薬企業などが拠点を置き、海外留保利益を米国債として保有してきた経緯がある。しかし、レパトリ減税が税制改革法案に盛り込まれ、米国証券保有高が減少するか注目だ。

1位 中国 1兆1,651億ドル(2017年6月以来の低水準)、59億ドルの売り越し、3ヵ月連続で流出
2位 日本 1兆299億ドル(2011年10月以来の低水準)、56億ドルの売り越し、前月から流出に反転
3位 ブラジル 3,178億ドル(3ヵ月連続で過去最高を更新)、181億ドルの買い越し、買い越し基調を継続
4位 アイルランド 3,158億ドル、156億ドルの買い越し、前月から流出に反転
5位 英国 2,726億ドル、9億ドルの買い越し、前月から流入に反転

トップ5の米国債保有高の推移。


(作成:My Big Apple NY)

――中国は米国債を3ヵ月連続で売り越しつつ、14ヵ月連続で保有高トップの座を堅持しました。売り越し額は1位となる。売り越し額2位の日本は、保有高では2位ながら2011年10月以来の低水準だった。アイルランドに代わって3位に浮上したブラジルは、レアル買い・ドル売り介入を継続するものの、買い越し基調を維持しています。

気になる米国債保有高の主要国リスト(300億ドル以上)ですが、8月は前月から1ヵ国増えて30ヵ国となりました。これまで5月にロシア、6月にトルコが外れ、5月に主要国入りしたチリも以降は圏外。しかし、8月はイスラエルが入っています。

さて、ここで思い出されるのが世界の外貨準備高における構成比率です。2018年4~6月期には62.3%と5年ぶりで最低となりました。米国債保有高の主要国リストから脱落したロシアこそ、その原因と考えられます。


(作成:My Big Apple NY)

外貨準備高でドルの構成比率が低下した一方、人民元は1.8%へ上昇し豪ドルの1.7%を超え、加ドルの1.9%に迫ります。日本の5.0%、ポンドの4.5%からはまだ距離を残すとはいえ、米中貿易摩擦が激化するなかで中国の存在感が高まっている点に留意すべきでしょう。

(カバー写真:Joe Campbell/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。