日本癌治療学会で特別講演をした。このような機会を与えていただいた会長の野々村祝夫先生に感謝である。講演の冒頭に、「この大会のテーマが『調和と融合』なので、私が適任かどうか、躊躇した」とジョークのつもりで言ったが、全く受けなかった。
講演後に知人から、「ジョークとわかって、私は思い切り笑ったが、周りはここで笑っていいのかどうか戸惑っていた」とのコメントがあった。弟子は、「冗談とわかっていても笑えるはずがありません」。先輩からは、「調和と融合ではなく、『破壊と創造』の中村です」と言えばよかったのだと言われた。それは言い過ぎだろうと思ったが、愛すべき先輩の言葉には反論はできなかった。
「調和と融合」は「和をもって尊しとなす」という日本の伝統的精神に立脚するが、「異端児」・「一匹狼」と称される私のイメージには会わないような気がする。2週間前の食事会の際に、「私もいろいろ苦い経験を積み重ねてきたので、直球だけでなく、時には、カーブやフォークボールも投げるのですよ」と言ったら、「打たれても、打たれても、直球を投げ続けるのが中村祐輔だ」と反論された。私のイメージは、何があっても、サヨナラ満塁ホームランを打たれても豪速球を投げ続けるというイメージのようだ。
革命を起こすには、破壊が必要なのだが、せっかくの機会を与えていただいた会長の顔を潰さないように、格調高く「調和と融合」の気持ちで無事に講演を乗り切った(と思う)。しかし、歳を取ったためか、50分の講演の最後の方は疲労感を感じた。3-4年前までは2時間くらいまで平気だったが、最近は、1時間の講演は結構厳しいものがある。
しかし、段々広がっていくがんプレシジョン医療の全貌、5-10年後のがん医療のあり方、そして、人工知能の医療分野に果たす役割を紹介するのは1時間では難しい。最先端の医学研究の現状、特に、ゲノム解析の進歩、免疫療法の進展など、10年前に医学部を卒業した医師でも、技術の進歩を理解するのは容易ではない。
日本の医学部で、しっかりと「ゲノム医学」を教育の一環として取り入れているところはほとんどない。遺伝学教育も不十分だ。免疫学も忙しい臨床現場で日々の診療に追われていると、「浦島太郎」状態だ。これでは、いくら科学が進歩しても、患者さんには還元されない。
来年の夏ぐらいに有志を集め、ゲノム医学・ゲノム免疫学講座の集中講義を開催したいと考えている。それを編集して、人工知能学習システムの開発にチャレンジしたい。
これから数か月に渡って、専門家向け・一般医師向け・一般の方向けの講演は続くが、先に紹介した「がん撲滅サミット」の前に、福岡で一般向けの講演をする。フライデーの記事で注目が集まっている福岡がん総合クリニックの森崎先生がオーガナイザーの会だ。
11月10日午後2-4時に福岡のFFGホール(福岡銀行地下)で開催され(参加申し込みは、クリニックのウエブページから)、私の講演は午後2時スタートの予定(1時間)である。是非、ご来場いただきたい。第2部では、がん治療医のパネルディスカッションがあるので、参考にしていただければと願っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。