6月3日、取材チームは、私が車を運転して回る富良野・美瑛コースと、高齢化社会を取材テーマとする夕張チームと二手に分かれた。夕張には北海道大学大学院広報メディア・観光学院の博士課程に学ぶ王瞻(オウ・セン)さんが通訳として同行してくれた。彼は、交通手段や取材先との交渉まできめ細かい仕事をして、不案内な学生たちを助けてくれた。私たちの日本取材ツアーにおいて、優秀な中国人留学生の存在は欠かすことができなかった。
報告会では新聞専攻4年の蔡少頴が夕張の公共交通問題について、同じく李青彤が高齢者や障がい者を支援する一般社団法人「らぷらす(La Place)」の取り組みを紹介した。
石勝線夕張支線は2009年3月31日に廃線となる。その後JR北海道が7億5000万円を支援し、代替措置としてバス路線の整備が行われる。学生たちは実際に列車に乗り、無人駅を見て歩いた。鉄道ファンのほか利用客は皆無。町にも人影はなく、過疎化、高齢化に直面した夕張の深刻な状況を肌で感じた。
「62歳のおばあさんが雪かきの応援を頼んだところ、駆け付けたボランティアは82歳と87歳のおじいさんだった」
彼女たちが耳にした最も印象的な言葉だ。だが、むしろお年寄りがなお元気に暮らしていることの裏返しだとも言える。
そうした人々のネットワークを支えている中核として、学生が取材し、伝えたのが安斉尚朋さんが創設した「らぷらす」だ。学生が市民グループの活動を取材したいと希望したのを受け、私がネットで見つけ、メールで取材を申し込んだところ、快諾していただいた。当日の取材は、日曜日だったにもかかわらず、安斉さんが車を運転して、学生たちに市内案内をしてくれた。
安斉さんは社会福祉を学んだ後、夕張市内の知的障害者入所施設で15年間勤め、その後、2012年、「障がいを持って生まれても、地域で生涯暮らせるまちづくり」を目指し2012年、らぷらすを設立した。キーワードは「共生」である。
主要な業務の一つが、高齢者への食事宅配だ。障がい者ら社会で働くことが困難な人々が集まり、それぞれができる範囲の作業をして弁当を作る。配達のため高齢者の家に立ち寄ることが、一人暮らし状態を知る機会にもなる。また、体や心の障がいを抱えた子どもたちに遊びのスペースを提供し、コミュニケーションの中で自立の道を探る試みも行っている。
人口は9000人足らずで、その半数を高齢者が占める。そんな過酷な状況にあって、金や技術ではなく、人のつながり、共生によってまちづくりをする「らぶらす」の営みが、学生たちの目には新鮮に映ったようだ。
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。