東京・渋谷の今年のハロウィン騒動は先週末に5人の逮捕者を出すなど混乱が広がり、長谷部健区長が緊急声明を出す事態になった(参照:渋谷区サイト「10月31日のハロウィーンに向けたお願い」)。あす31日の「本番」を前に現状の見直しを求める世論が強まっており、2期目の選挙を来年4月に控えた長谷部区政にとっても試練になろうとしている。
ハロウィンはクリスマスに比べ、長らく日本で定着しなかったが、SNSが普及した近年は「コスプレの祭典」などとして急速に盛り上がってきた。その過程で2015年4月に長谷部氏が区長に初当選。博報堂出身で、区議時代からお掃除NPO「グリーンバード」の活動を全国に広めるなど、新しい街づくりを実現・推進してきた長谷部氏は、ハロウィンについても独自の振興策を試みてきた。
長谷部区政スタート後、最初のハロウィンとなった2015年秋には、大きな問題になっている、ごみ問題に着手した。地元商店主らが企業の協賛も得ながら「ハロウィンごみゼロ大作戦 in 渋谷 実行委員会」を組織。お化けのイラスト入りのオレンジ色のごみ袋をボランティアと配るなどして啓発に努めてきた。
また、宮下公園に仮設の更衣室やメイク用のテント、仮説トイレを設置。行政がお祭りの盛り上げに一役買う大胆な試みも行い、警視庁も、区に呼応するかたちで、2016年からはスクランブル交差点から「109」周辺にかけての道路に車の進入を規制してきた。
こうした「祭典と秩序の両立」への試行錯誤は、グリーンバードで定評のある長谷部流ソーシャルプロデュースの真骨頂だったと言える。渋谷のハロウィンの取り組みは、オリンピックに向けて浮揚が期待されるナイトタイムエコノミーの先進事例としても注目を集めていた。
もともと、渋谷区はナイトタイムエコノミーにも意欲的で、夜の街づくりのリーダーとして鍵を握る「ナイトメイヤー」に昨年、ラッパーのZeebra氏が就任。渋谷・新宿両区の観光団体が夜の経済振興のためのバウチャーも共同で発行してきた。
しかし、逮捕者が5人も出る事態を受け、ナイトタイムエコノミーの専門家でもある木曽崇氏が「下手すると、来年はもう無くなってしまうのかもしれません」と嘆くように、もはや見直しは避けられまい。
トライ・アンド・エラー区政なら軌道修正のスピードが命
この問題をネットメディアで積極的に報じてきたのが朝日新聞系のハフポストだ。編集長の竹下隆一郎氏が昼の情報番組でスタジオ出演し、解説もしていた。NewsPicksでも「イノベーター区長」として連載インタビューがかつて掲載されていたが、それらの媒体のターゲット層からもわかるように、長谷部氏の支持層は「意識高いリア充リベラル」系が多い印象がある。
リア充リベラルは、新興企業の経営者らも多いが、行政については良くも悪くも既成概念にとらわれず、ときには民間とも大胆にコラボしながら施策を進めていく。ただ、ベンチャー的な発想は新地平を築く可能性と隣り合わせでリスクもある。
区長選で当選が決まった直後、応援者の一人だった筆者は選挙事務所にいたが、長谷部氏は報道各社の取材にこう語ったのが新鮮で今でも覚えている。
「僕ら世代の創造力を加え、この街を発展させたい。トライ・アンド・エラーを恐れずどんどん進んで行きたい」(出典:読売新聞)
日本の社会では政治や行政に無謬性を強いる嫌いがある中で、「トライ・アンド・エラー」はなかなかチャレンジングに感じたものだった。もちろん、それが長谷部氏らしさであるからこそ、ナイトタイムエコノミー行政の実践にも繋がってはきた。
それだけに新しもの好きのハフポストやNewsPicksあたりは苦言はしても「ハロウィンからの撤退」までは言うまい。しかし、長谷部氏にはいささか迷惑かもしれないが、筆者は彼の支持者の中では希少種のタカ派だから、敢えて「勇気ある撤退」を言っておく価値はあると思う。トライ・アンド・エラー路線で致命傷を招かないためには、エラーが出たときになるべく早急に対処することが必要だからだ。犯罪やけんか騒ぎで死傷者が出るような事態になってからでは取り返しがつかない。
報道を見ていると、地元商店街にもハロウィンが景気対策どころか逆に店舗閉鎖などの損害に繋がっていることに苦情が相次いでいる。彼らの中には、長谷部区政を支持する人も多かったはずだ。
具体的に撤退となると、規模の大小はあるだろうが、少なくとも渋谷駅周辺の中心街に若者たちが集まって騒ぎやすくするような環境づくりはやめ、警察も深夜未明まで厳戒態勢を取ることで規範意識のない若者の流入を阻止するしかない。ナイトタイムエコノミー振興策への懸念があるなら「次善の策が提案できるまでの一時中止」と言う名目を掲げ、ペンディングにしてもいいのではないだろうか。