学校ICT化最前線

井上 貴至

文部科学省は、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」を策定。2018~2022年度まで単年度1,805億円の地方財政措置が講じられ、全国の学校のICT化が進められています。

その最前線が、スマートシティを掲げる愛媛県西条市。「第2回全国ICT教育首長サミット」では、最優秀賞の一つである「2018日本ICT教育アワード」を受賞。今や北海道から九州まで視察者が絶えません。

写真提供:西条市。以下同じ

僕が見学させていただいたのは、小学3年生の三角形に関する授業。

僕が小学生の頃は、先生は黒板の板書に集中し、児童は板書を写すことが中心でしたが、現代の西条市では電子黒板をフル活用。あらかじめパワーポイントで板書を作成しているので、先生は児童の反応や様子を探り、集中しきれていない児童には素早く声をかけるなどきめ細かく対応します。前(児童)を見るか、後ろ(黒板)を見るかの違いは、とても大きいです。

そして、電子黒板があることで、先生間の年度を超えた引継ぎも容易になります。これまでは前任の先生がどのような授業をしていたのか把握するのは難しかったのですが、パワーポイントで記録として残っているので、それをベースにすることができます。先生のノウハウの継承や負担の軽減につながっています。一部の仕事は自宅でも可能となり、転勤で西条市を離れたなくないという先生が増えています。

西条市では、全教科で電子教科書を活用。例えば、社会科の巻き網漁を文字で見てもイメージがわきづらいですが、動画で見ることで児童の興味・関心が高まります。

そして、タブレット。児童が考えたこと・描いた絵などをタブレットに写して、すぐに送信、電子黒板に大きく表示されることで、これまでと比べて児童の発表の時間を十分に確保することができます。西条市の小学校3年生は、明らかにプレゼンテーション慣れしていました。また、他の児童の発表を聞いて、考えを深め、自分の意見を発表する児童もたくさんいました。

タブレットの活用等は、ICT支援員が丁寧にサポート。だからこそ、ICTに慣れていない先生も安心して授業に臨むことができます。

また、少人数校では、スクリーンや音声マイクを活用して、バーチャルクラスルーム(遠隔合同授業)を実施。臨場感あふれる環境で、他校の児童も自分の教室の児童と同じように学ぶことができます。少人数校では手厚い等のメリットがある一方、友人が少なく、考えや価値観が固定化する、競争が生まれにくいというデメリットがありますが、西条市モデルではデメリットをうまく克服しています。また、違う学校の先生同士が同じ授業をつくることで、先生のスキルアップにもつながっています。

更に、校務支援の分野でも、先生1人に1台ノートパソコンを配備し、グループウェア等ICTを積極的に活用。働き方改革を進めています。

整備にかかった費用は設備投資やソフトウェアの使用料、ICT支援員の委託料等で約8憶円。西条市の小学校の児童、中学校の生徒の数は約8,500人ですから、1人あたり10万円にも満たない額で、大きな成果を挙げています。

今後は、保護者面談で、タブレットを示しながら、児童の成長の軌跡を伝えること等も検討しているそうです。

実際にICTを活用した授業を見学することで、どの分野でどのタイミングでICTを利活用するか、児童の興味・関心をどう引き出すか、児童の発表にどう臨機応変に対応するか・・・先生の技量がますます問われることがよく分かりました。実際、ベテランの先生の方が、授業のポイントが分かり、ICT支援員のサポートのもと、ICTをうまく活用していることが多いそうです。

数年すれば、おそらく西条市の取り組みが当たり前になるのでしょう。

もう少し知りたい!
必要だから学ぶではつまらない!知りたい・やりたい・なりたいを追求するtanQ森本佑紀さん
公教育の最先端「福岡県飯塚市」
高校魅力化。大人だけでなく、自分たち高校生が伝えたほうがいい。

<井上貴至 プロフィール>


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2018年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。