独極右AfDを憲法擁護庁の監視対象?

昨年9月24日に実施された独連邦議会(下院)で野党第1党に大躍進し、先月実施されたバイエルン州議会選、ヘッセン州議会選でも躍進、ドイツ16州全州議会で議席を有する政党となった極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)を危険団体(政党)としてドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)の監視対象とすべきだという声が高まってきている。

▲躍進続けるAfDの連邦議会代表のアリス・ワイデル氏とアレクサンダー・ガウラント党首(左)=AfDの公式サイトから

その直接の契機は、AfDが党の政治信条・活動がドイツ基本法に合致していることを証明するため内部監査を外部の法専門家ディートリヒ・ムルスヴィーク氏に依頼し、このほど実施したことが明らかになったことだ。「AfD内部監査はBfVによる監視対象から逃れるためだ。党の本当の政治信条を隠蔽するためのアリバイ工作だ」(「キリスト教民主民主同盟=CDU」のパトリック・センスブルク議員) といった声が与・野党から既に飛び出している。

明らかになった内部監査によると、過剰外国化(Uberfremdung) や 移動する人々(Umvolkung)といったナチス時代の政治用語や概念を党員は使用しないことを助言している。それらの概念はナチ・ヒトラー時代を彷彿させ、国民にネオナチ党と誤解される危険が出てくるからだという。

社会民主党(SPD)のラルフ・シュテーグナー 議員はAfDを監視対象とすべきだと主張している一人だ。同議員は、「AfDの政治信条がドイツ基本法に合致していないことをカムフラージュするための試み」と、AfDの内部監査を批判している。

AfDは2013年、ギリシャ経済危機を契機に反欧州連合(EU)を掲げて結成された。その政党が党結成4年目の連邦議会選で野党第一党の政党に大飛躍したわけだ。

難民問題はAfDの躍進の原動力になったことは明らかだ。シリア、イラク、アフガニスタンから100万人を超える難民が2015年夏以降、ドイツに殺到した。その大きな原因はメルケル首相の難民歓迎政策だったことは間違いない。与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)内でもメルケル首相の難民政策に批判の声が挙がったほどだ。外国人排斥、反イスラムを標榜してきたAfDはその流れに乗って、メルケル首相の難民政策を厳しく糾弾し、ドイツ・ファーストを主張して国民の支持を得ていった。

ドイツでは過去、ネオナチ政党「ドイツ国家民主党」(NPD)が2004年から14年の間、州議会に議席を有していたが、それに代わってAfDが台頭し、「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(Pegida運動)などの極右運動が旧東独地域を中心に活発となってきた。AfDには旧東独のドレスデンから生まれた政治運動ペギーダの流れを組むメンバーが多い。そのAfDは今日、ベルリンの連邦議会で92席の議席を有する大政党となり、ドイツ16州全州で議席を有する政党となったわけだ。間違いなくサクセス・ストーリーだ。

AfDは結成当初から保守現実派からドイツ・ナショナリズムを標榜するテューリンゲン州党代表ビョルン・へッケ氏まで、様々な政治信条の寄せ集め集団だったが、共通点は反移民、外国人排斥傾向が強く、特に反イスラム傾向があることだ。EUに対しては一時、離脱を主張する声が強かったが、ここにきて離脱よりEUの刷新、加盟国の主権尊重に重点を置く現実路線に修正してきた。

連邦議会選で躍進したことを受け、党内で急進右派が主導権を握ってきた。ハノーバーの初の連邦党大会の結果では、その傾向がさらに強まった。連邦議会選後のAfDの初の連邦党大会では党代表の2頭体制が維持され、欧州議会議員のイェルク・モイテン氏(56)を再選する一方、2人目の党代表に副党首で連邦議会党院内総務を務めるアレキサンダー・ガウラント氏(76)を選出した(「AfD党大会の代表選で急進派が勝利」2017年12月4日参考)。ちなみに、AfDで現実路線を主張してきたフラウケ・ペトリー共同党首は連邦議会選直後、突然離党を表明した。

AfDは単なる抗議政党ではない。党指導部には反ユダヤ主義傾向も見られ、ガス室の存在を否定し、ホロコースト否定発言をする支持者もいる。そのため、これまでさまざまな物議を醸し出してきたことも事実だ。

各種の選挙結果を分析すると、CDU支持者から大量の票がAfDに流れている。その票の中にはメルケル首相の難民歓迎政策への抗議票が含まれているが、それだけではない。キリスト教的価値観や伝統を失ってきたCDUから保守系の有権者の票がAfDに行っている。例えば、AfDはドイツの政党の中で唯一、同性婚に強く反対している(「独AfDは本当にネオナチ党か」2017年9月26日参考)。

ドイツでは8月末、ザクセン州のケムニッツ市で極右派の暴動が起きたが、同州のマーテイン・デュリグ経済相はシュピーゲル誌との会見の中で、「われわれの敵はAfDでなく、不安だ。それに打ち勝つためには希望と確信が必要だ」と述べたが、「不安」に打ち勝つ「希望」と「確信」をどの政党が国民に提示できるだろうか。AfDを危険政党として監視したとしても、AfDの躍進を止めることはできないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。