ドイツで24日、連邦議会選挙(下院)が行われ、極右政党の「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率12.6%を獲得し、連邦議会で第3党の地位を獲得した。AfDは2013年結党以来、州レベルでは議席を獲得してきたが、連邦議会では初めて。ドイツ・ナチ政党の歴史を抱えるドイツで、極右政党のAfDが連邦議会入りを果たしたというニュースは国内外でさまざまな反応を呼び起こしている。
ベルリンでは同日夜、多くの市民が反AfDデモを行い、「AfDを追放せよ」「ネオナチ党だ」といった檄が飛び交った。ところで、AfDは本当にネオナチ政党か。同党のプロフィールを少し調べてみた。
「ドイツのための選択肢」(AfD)は2013年、ギリシャ経済危機を契機に反欧州連合(EU)を掲げて結成された。党首はフラウケ・ペトリー、共同党首はイェルク・モイテンだ。AfDは党結成以来、州レベルで躍進を続けた(現145議席)。欧州議会にも議員を出している。前回の総選挙では議席獲得できる得票率5%の壁をクリアできずに惜敗(4.7%)したが、今回は2桁を超えた。党結成4年の新党が連邦議会で94議席(暫定)を占める政党に大飛躍したことになる。
同党にはさまざまな政治信条をもつ支持者が集まっている。共通点は反移民、外国人排斥傾向が強く、特に反イスラム傾向があることだ。EUに対しては一時、離脱を主張する声が強かったが、ここにきて離脱よりEUの刷新、加盟国の主権尊重に重点を置く現実路線に修正してきた。
AfDには旧東独のドレスデンから生まれた政治運動ペギーダの流れを組むメンバーも多い。ペギーダは反イスラム色が強く、愛国主義的政治運動で、一種の“ドイツ・ファースト”を政治信条としている。
ドイツでは2015年夏以降、シリア、イラク、アフガニスタンから100万人を超える難民が殺到したことを受け、国民の間にイスラム教徒への嫌悪感や不安が生まれてきた。AfDは国民の不安、恐れを巧みに扇動し、選挙戦では難民歓迎政策を実施してきたメルケル首相を激しく批判し、有権者の一定の支持を得た。
ただし、AfDは単なる抗議政党ではない。党指導部には反ユダヤ主義傾向も見られ、ガス室の存在を否定し、ホロコーストを否定する発言をする支持者もいる。そのため、これまでさまざまな物議を醸し出してきたわけだ。
同党は今日、右派政党として現実路線をいくか、民族主義的、外国人排斥の従来の路線を継続するかで党内が分かれている。AfDは今年4月、ケルンで党大会を開催し、選挙筆頭候補者を選出したが、フラウケ・ペトリー党首が提出した党刷新案(現実路線)は拒否されている(ペトリ―党首が党内の強硬派から締め出される可能性も考えられる)。
メルケル首相はAfDとの連立政権を組むことを拒否している。党歴代最低の得票率(約20.5%)だった社会民主党(SPD)のシュルツ党首も「議会民主主義を擁護する意味で我々は警戒しなけれなならない」と述べ、AfDの連邦議会進出に警告を発している。
左派系メディアからは「AfDはネオナチ政党」と酷評されることが多いが、同党の政治信条を見る限り、オーストリアの極右政党「自由党」に似ている。実際、AfDは昨年、「自由党」と連携を強化することで合意している。
自由党はヨルク・ハイダー党首時代は「ネオナチ政党」というレッテルを張られたが、ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首時代に入って、右派政党の現実路線を鮮明化してきた。EUに対しても離脱ではなく、EUの改革を要求している、といった具合だ。ただし、AfDと同様、党内にはネオナチ的な政治信条を有する党員はいる。その意味で、自由党は依然、極右政党と呼ばれているわけだ。
興味深い点は、自由党は同性婚問題ではっきりと反対しているオーストリア唯一の政党だ。AfDも男性と女性の伝統的家庭像を支持し、同性婚には反対しているドイツ唯一の政党だ。
ドイツ連邦議会で6月30日午前、同性愛者の婚姻を認める法案(全ての人のための婚姻)の採決が実施され、賛成393、反対226、棄権4と賛成票多数で可決された。CDUは党として同性婚にこれまで反対してきたが、メルケル首相が「党の強制を解除し、個々の議員の良心に委ねたい」と発言。その結果、連邦議会の採決ではCDUから75議員が同性婚法案に賛成を投じた。
選挙結果の分析によると、CDU支持者から約100万票がAfDに流れたという。その票の中にはメルケル首相の難民歓迎政策への抗議票が含まれているが、それだけではない。キリスト教的価値観や伝統を失ってきたCDUから保守系の有権者が次第に離れてきているというのだ。それが事実とすれば、CDUにとって深刻な問題だ。
CDU・CSUは今回、得票率約33.0%で、前回(2013年)比で約8.5%を失った。党歴代2番目に悪い結果だ。AfDの飛躍の陰でCDUの低落ぶりはあまり注目されていないが、メルケル首相の与党は今、危険水域に入ってきているのかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。