前回は、北海道もしもの大停電への備え:石油ストーブを使うときの注意点ということで、北海道立総合研究機構(以下、道総研)の建築研究本部長で北方建築総合研究所所長の鈴木大隆さんに伺ったお話を交えて、冬場の停電時の「もしもの備え」についてお伝えしましたが、今回はその続きです。
真冬に暖房が止まると、室温は1日で何℃低下する?
今年9月に発生した北海道の大地震による大停電のあと「もしこれが暖房の必要な冬だったらどうなっていたんだろう?」と不安と危機感を覚え、どんな備えができるのかぜひとも鈴木さんにお話を!と意気込んでいた私たち。
ところが鈴木さんいわく、「道内全域ではないにしろ、北海道ではこれまでに、寒い時期の数日間の停電が何度も起きているんですよ。例えば最近だと2012年に、暴風雪で鉄塔が倒れたり電柱が折れたりして、登別や室蘭を中心に、最大3日間の停電が発生しました」。
それを受けて同年、道総研は新木造住宅技術研究協議会(新住協)旭川支部との共同研究(「道北の地域特性に配慮した循環型住宅の技術開発」)の中で、一定の断熱・気密性能がある住宅で冬場に暖房が止まったとき、室温がどのくらいの時間でどこまで下がるかの検証が行われました。下のグラフがその結果です。
床面積128.76㎡、熱損失係数(Q値)が1.5〜1.0(W/㎡・K)程度の木造2階建てのモデルハウスにおける実験のデータ(資料提供:道総研)
外気温が24時間0℃を下回っている日でも、室温は夜間に5℃ほど下がるだけで、最低でも12℃以上を保っていることがグラフからわかります。もし翌日晴れて、日中に窓から太陽の光を採り込めれば、室温はむしろ少し回復します。「いつもどおりの室温、というわけにはいきませんが、普段よりも厚着をして暖かくしていれば、暖房がなくてもしのげる程度の室温は維持できるはずです」と鈴木さんはいいます。
この実験からわかるのは、断熱・気密性能に優れ、日中の太陽の光を上手に活用できる設計の住まいは、「真冬に暖房が使えない状況になっても、室内が凍えるほど寒くはならない」ということ。普段の暮らしの中での省エネ・省コストを意識してつくられた家は、非常時にも心強い家ともいえるのです。
新築・リノベ時に検討しておきたい「LDKのシェルター化」
現在、北海道はもとより全国的に断熱・気密性能の高い住宅も増えてきていますが、それが「今の日本の住まいのスタンダード」とまでは言えない状況です。また特に道内にある築年数の古い家は、暖房なしでは真冬の寒さに耐えられないでしょう。そこで鈴木さんが提案するのが「LDKのシェルター化」です。
停電や灯油不足等で暖房が使えなくなるとおそらく、家族はLDKに集まります。そこで新築やリノベーション時に、LDKだけ他のスペースよりも断熱材を厚めに入れて、断熱性能を強化。そうすることで「非常時でも凍えない室温を保てる」と鈴木さんはいいます。
そもそもこれは「ほどほどの暖かさで省エネな住まいを実現するための、新しい断熱技術の取り組み」として、2008年に道総研が民間企業と共同で行ったリノベーションの研究に基づくもの。実際に築27年の住宅の断熱改修を行い、その前後での住宅の性能値(実測から得た熱損失係数(Q値))とひと冬に使うエネルギー量(灯油の使用量)を比べました。
研究に協力した札幌市のSさん宅。50代という年齢から老後に備えるため、不具合の出てきた築27年になる住宅をリノベーションした。工事では、家全体の断熱・気密性能を向上させるとともに、LDKの断熱性能を他の場所以上に強化。暖房はヒートポンプ式の電気ボイラーに。住んでみての感想は、「いつもふわっと暖かく、体験したことのない快適さです(Sさん)」
上の「改修前住宅」の図のように、人がいる1階だけ温める部分暖房だと、家の中の温度差によって結露や凍結等の問題が起こります。そのため新築にしてもリノベーションにしても、家全体の断熱性能を高める必要があるのは大前提です。それに加えて、暮らしの中心スペースであるLDKを高断熱化することで、建築費や日常の暖房にかかるランニングコストを抑えることができるうえ、非常時には家族を守るシェルターの役割も果たすのです。
鈴木さんが指摘するように、停電に限らず、自然災害による冬場の暖房の停止は、いつどこで起きないとも限りません。これから住まいの新築やリノベーションをお考えの皆さんは、日々の快適な暮らしにもつながる「LDKのシェルター化」について検討してみるのも、「もしもの備え」としては有効かもしれません。
—
三木 奎吾(みき けいご)1952年北海道生まれ。広告の仕事をへて1982年独立。北国の住宅雑誌「Replan」編集長。