「黒船」カルロス・ゴーン逮捕:日本社会にさらなる衝撃

新田 哲史

東京地検特捜部は19日夜、日産自動車のカルロス・ゴーン会長(64歳)について、有価証券報告書に記載する役員報酬額を過少申告する虚偽記載をしていたとして、金融商品取引法違反容疑で逮捕した。NHKが午後7時46分速報した。

日産自動車サイトより:編集部

ゴーン容疑者が逮捕されるとの一報は午後5時すぎ、報道各社で朝日新聞デジタルが最も速かったとみられる。そして2時間も経たないうちに、日産広報からプレスリリースが出た。

当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について

これによると、代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者とともに不正の疑いがあるとの内部通報をきっかけに社内調査を数か月前から行なっていたという。その結果、

両名は、開示されるカルロス・ゴーンの報酬額を少なくするため、長年にわたり、実際の報酬額よりも減額した金額を有価証券報告書に記載していたことが判明いたしました。

としている。他にもゴーン容疑者については私的流用の疑いもあるとしており、検察側にも情報提供してきたようだ。特捜部の強制捜査が夕刻になったのは、株取引への影響も考慮し、ライブドア事件当時のガサ入れなどと同じく、株式市場が閉じるのを待っていたとみられる。朝日の一報から広報発表までの“手際の良さ”を考えると、確かに日産側が容疑内容の実相を熟知していたようにも感じる。この後、午後9時からの記者会見は相当突っ込んだものになりそうだ。

容疑内容については、今後の報道等を待って改めて分析してみたいが、トヨタ、ホンダと並び、日本を代表する自動車会社のトップが逮捕されるというビッグニュースは、日本社会に与える衝撃は大きい。それは2018年の国内十大ニュースに入るだろうというだけではない。

ゴーン容疑者は日本人にとってこの20年に渡り、21世紀のグローバル経済時代の到来を象徴する「現代の黒船」のような存在でもあった。有利子負債2兆円の「瀕死」だった日産を、日本人経営者ではなし得なかった、工場閉鎖などの大胆なリストラ策を展開。その後の「V字回復」は彼の代名詞にもなった。

新しい上司はフランス人
ボディーランゲージも通用しない

これはチャンス これはチャンス
勉強しなおそう

これはゴーン容疑者が日産トップに就任した2年後の2001年に発売された歌謡曲「明日があるさ」の歌詞の一節。オリジナルの曲は1963年に故・坂本九さんが歌ったヒット曲だったが、前年に当時人気バンドだったウルフルズがカバー。それを今度は日本テレビ系の同名タイトルのドラマの主題歌として、主演したダウンタウンの浜田雅功さんら吉本芸人らが歌うバージョンが作られた。

リメークされた際の新しい歌詞は、「これからの時代は英語はできて当たり前」と言わんばかりの、グローバル化の波を日本のサラリーマンがひしひしと感じ始めた世相を表すものだったと言えよう。折しも当時の日本サッカー代表監督がゴーン容疑者と同じフランス人のフィリップ・トルシエ氏だった影響も多少はあったかもしれない。

今年8月には日経新聞の名物連載「私の履歴書」で1ヶ月に渡り、半生を振り返ったゴーン容疑者。最終回では

私はグローバル化を信じている。保護主義的な動きも出てきたが、グローバル化が止まることは、多分ない。我々はそこから得られる利益がいかに大きいかを常に訴え続けないといけない。

未来がどうあろうと、日本には頻繁に足を運んでいると思う。来日から18年、この信じがたいほどすばらしい国からは多くを学び、私は明らかに違う自分になった。日本はもう、私のアイデンティティーの一部だ。

などと締めていた。「信じがたいほどすばらしい国から多くを学んだ」というゴーン容疑者はここからしばらく検察当局の厳しい取り調べの中で、何を思うのだろうか。