延滞率から考える「住宅ローンの危険度」

高幡 和也

年収倍率で5倍や6倍といわれるマイホームを購入する場合、一般のサラリーマンが「現金一括払い」するのは至難の技なので、ほとんどの場合「住宅ローン」が利用される。

住宅ローンは大抵30年前後の長期で組まれるので、利用者は返済を継続するために「数十年先の収入や就業状況まで想定」しなければならない。

この「数十年先の収入や就業状況まで想定」しなければならないことこそ、一部の人が「住宅ローンは危険」だと声をあげる理由のひとつだろう。

では、実際に住宅ローンは危険なのだろうか?

危険かどうかを測る目安として「住宅ローンを払えなくなる割合」を考えてみたい。

明確に住宅ローンを払えなくなる人の割合(延滞者の割合)を調査した資料は無いので、ここでは住宅金融支援機構の「平成29年度リスク管理債権」の中身を見てみる。

このなかで「破綻先債権額・延滞債権額・3 か月以上延滞債権額」の合計が貸出元金残高全体に占める割合、つまり延滞率は「1.69%」となっている。ここから旧住宅金融公庫時代の直接融資(既往債権等)を除いた延滞率は「0.43%」である。そしてもちろん、この数字が住宅ローン利用状況のすべてを網羅しているわけではない。

いずれの延滞率についても、この中のすべての債権が回収不能に陥るわけではなく、実際には担保物件の差押え後に抵当権の実行などにより、回収不能となる債権残高の割合はこれよりももっと少なくなる。

延滞率とデフォルト率(貸倒れ率。ここでは回収不能債権を含むものとする)はそれぞれ違うものであり、関係性としては、延滞率>デフォルト率となる。

長期間にわたる住宅ローンの危険度を考える際に気を付けなければならないのは、「金融機関が考えるリスク」と「住宅ローン利用者が考えるリスク」には若干の差があるということだ。

つまり、金融機関はデフォルト率のリスクを考えることが重要だが、住宅ローン利用者は平穏な生活が脅かされないための「延滞リスク」を考えることが最重要だといえるだろう。

超低金利時代においても金融機関が住宅ローンに積極的に取り組んでいるのは、金融機関にとって、住宅ローンのデフォルト率が他の債権に比べて低いからに他ならない。

しかし、住宅ローンのデフォルト率が低くても、延滞率は「0」にはならない。

ひとたび住宅ローンの延滞が始まれば、これまでの平穏な生活に重大な影響が出ることは想像に難くないだろう。

誰しも、長期にわたる返済が必要な住宅ローンの利用について慎重な検討を必要とするのは間違いないし、先述したように、金融機関のリスクとローン利用者のリスクを同じ目線では語れないのだ。

では、延滞率を客観的な視点でみてみよう。

住宅ローンのデフォルト率は歴史的に20ベーシスポイント(0.2%)だといわれる。
※参考 日銀レビュー「銀行の住宅ローンを巡る最近の動向とリスク管理上の課題」(2008年)

この「0.2%」という数字が、担保物件の処分によってデフォルトした債権の半分が回収できているものだと仮定すれば、前述した住宅金融支援機構の既往債権を除いた延滞率「0.43%」の信憑性も高くなる。

当然、延滞率に金融機関ごとのばらつきはあるだろうが、この「0.43%」という数字を延滞率のもとにした場合、客観的には「住宅ローンは危険」という意見には同調しづらい。

しかし、この延滞率について、実際に住宅ローンを利用されている若しくはこれから利用される方々はどのように感じるのだろう。

やはり「住宅ローンの危険度」を語る場合に重要なのは、住宅ローンを利用している若しくは利用する人の目線なのである。