違法性より倫理の欠如でゴーンは失格

公私混同と暴走と乱脈

日産会長だったカルロス・ゴーンほど、世界的一流企業を舞台に、経営者倫理を次々に無視した人物はこれまでいなかったでしょう。専門家やメディアは、巨額の役員報酬の虚偽記載などの違法性を立証できるかどうかに、焦点を当てています。私は違法性以上に、あまりにもひどい経営モラルの欠如に焦点を合わせるべきだと思います。

日産サイトより:編集部

報酬が後払いの扱いだからまだ未払い、つまり報酬を受け取っていない段階なので、不正は成立しておらず、所得税の脱税も成立していない。有価証券報告書に記載義務があったかのかどうかも議論が分かれる。だから違法性を立証するハードルは高いのではないか。つまり法律上、有罪なのか無罪なのかが、関心を集めています。

では、検察がかりに裁判で有罪に持ち込めなかったら、あるいはゴーンが重要な争点で無罪を勝ち取ったら、免責にされるかというと、そんなことはない。次々に明らかにされている数々の容疑を眺めてみると、これほど経営モラルの欠如、企業倫理の無視が疑われた経営者はいなかった。前代未聞。なぜこのような経営者が送り込まれ、20年も日産に君臨できたのかこそが問題なのです。

違法性の有無以前の暴走

次々に検察や日産関係者からリークされている容疑に、結局、違法性がなかったことが立証されたと仮定します。そうだとしても、経営モラルからみてゴーンが潔白だったことにならない。違法でなければ、許されるかとなると、それは違う。そうした問題提起が少なすぎると、思います。一流企業ほど、経営者には高い倫理性が求められるのです。

「法的にもクロ、経営モラルからみてもクロ」という場合もあれば、「法的なクロは免れても、経営モラル上はクロ。経営者として失格」という場合もあります。今回の事件では、法的的な違法性、経営モラル・倫理上の問題が混線しています。この2つの側面をきちんと整理して議論すべきです。

ルノー・日産・三菱自動車の3社連合で、世界第2位の販売台数を持つスーパー企業のトップもとなれば、高い倫理性、経営モラルを求められます。役員報酬の開示(年収1億円以上)は、高額報酬の抑制が目的ではなく、投資家が企業統治の状況を評価できるようにするために、義務付けられました。報酬の虚偽記載は形式犯という人がいる。企業統治の根幹を軽視してるか、重視しているかが本質的な問題です。

企業倫理に背く透明性のなさ

世界的にみると、年収2,30億円の経営者は少なくなく、経営手腕に見合う対価ならば、隠すことではありません。ゴーンのように、毎年10億円の後払い分を伏せておいたら、投資家に適正な経営情報が届きません。さらに後払いならその旨、明記し、退職慰労金のような形で、毎年、引当金を積むのが正常な会計処理です。まともな企業ならどこでもそうしています。透明性のなさは、企業倫理に背きます。

仕事の対価として高すぎるという後ろめたさがあったのでしょうか。後払いに関する覚え書きは存在し、秘書室に極秘扱いで保管してたとのことです。トップがいくらの報酬を得ているかは基本的な経営情報です。「報酬は自分で決めた。自分の得る金額は高いので、公表すると、社員がやる気をなくす」と、ゴーンは説明しているとか。苦しい言い逃れ、弁解にしか聞こえてきません。

後払い分に関する記載義務を金融庁に問い合わせたら、「義務はない」と書面で回答を得たと、ゴーン側は主張しているそうです。内閣府令の方針はその逆のようです。金融庁が本当にそういったというなら、その書面を公表したらどうなのでしょうか。

新聞報道に、「2008年(リーマンショック)、金融取引で生じた10数億円の損失を日産側に付け替えた」というのがありました。恐らく額面割れしている債権、証券類を簿価で引き取らせる、つまり「飛ばし」みたいなものでしょうか。会社法の特別背任罪に相当します。さすがに「飛ばし」が成立しなかったので、報酬を後払いさせ、穴埋めしようとしたのかもしれません。

今回の事件では、地検特捜部と日産関係者からの情報リークをもとに、メディアは報道しているように見られます。あまりにもタイミングよく、重要情報が明らか次々、明らかにされるので、政府の意思も働く「国策捜査」との批判が聞かれることがあります。

日本政府として、3社連合の基本的な枠組みを壊すつもりはないでしょうから、国策捜査というには無理がある。日産には指名委員会もない、報酬委員会もない、ゴーンの一存で全てが決まる。こんな状況を放置してきたルノーの大株主のフランス政府の責任は重い。

安倍首相がマクロン仏大統領と会談し、3社連合について「政府として関与するつもりはない」と、指摘しました。正解でしょう。仏政府はルノーの株主ですから、前代未聞の不祥事を招いたゴーン体制について、仏政府がまず責任を認めるべきでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。