韓国の文在寅大統領は先月27日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催される先進20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するためにソウルを発ち、大統領専用機の給油目的のためチェコ入りし、同国政府首脳と会談をこなした後、28日夜(現地時間)、ヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港からブエノスアイレスに向かった。
文大統領の外遊日程は先月27日から5泊8日でチェコ、アルゼンチンのG20首脳会議、最後にニュージーランド訪問だったが、文大統領がG20首脳会議前になぜチェコを訪問したかで韓国メディアは騒いでいる。
韓国中央日報や朝鮮日報は「文在寅大統領はG20首脳会議に出席するためアルゼンチンに向かう途中チェコに立ち寄ったが、これについて疑惑がいまだに収まらない」と報じている。
そこで文大統領のチェコ訪問に関わる疑問点を整理する。
①文大統領の訪問のチェコ側のホストはプロトコール上、ミロシュ・ゼマン大統領だが、同大統領はイスラエルを国賓訪問中で、文大統領がプラハ入りした時は不在だった。そのため、文大統領は28日、チェコではアンドレイ・バビシュ首相と会談している。
②韓国政府は米ロサンゼルスで大統領専用機の給油をすると発表したが、10月中旬、急きょ変更され、給油目的のためチェコを訪問することになった。
③韓国側は文大統領とチェコ首相との会談を「会談ではなく、面会」と説明してきたが、チェコ側の要請を受けて「非公式な面会」となった。両国間で訪問の綿密な準備がなかったことが伺える。
④チェコ訪問の目的は政府の説明では「原発セールス」だったが、韓国大統領府は「原発は全く議題ではなかった」と弁明するなど、関係者の説明がコロコロ変更している。中央日報の先月29日報道では文大統領は韓国の原発の安全性をアピールしたという記事を流している。
韓国外務省は大統領のチェコ訪問を公表する時、チェコを旧名「チェコスロバキア」と表記するなど、初歩的外交ミスを犯している。朝鮮日報3日付の社説は「文大統領のチェコ訪問は本当に給油が目的だったのか」と報じ、疑惑視しているほどだ。
一国の大統領の外国訪問でこれほど杜撰(ずさん)な準備は考えられない。文大統領のチェコ訪問には「何かある!?」と韓国メディアが考えても可笑しくはない。名探偵シャーロックホームズでなくても、首を傾げざるを得ない点が多い。
そこで文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」を考えてみた。直ぐに頭に浮かぶことは、チェコの首都プラハには文大統領の南北首脳会談の相手、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の叔父、金平一氏が北大使として赴任しているという事実だ。
金平一大使(64)は故金日成主席と金聖愛夫人の間の長男で、金正恩氏の父親、故金正日総書記とは異母兄弟だ。その上、政敵でもあったため、金大使は平壌の中央政界から追放され、欧州各地を転々とする外交官となった。金大使の外交官キャリアは1982年、駐ユーゴスラビア武官時代から始まり、駐ハンガリー大使、駐ブルガリア大使、駐フィンランド大使、そして1998年から17年間余り駐ポーランド大使を務めた後、2015年から駐チェコ大使だ。
すなわち、文大統領は金正恩氏の親戚が住んでいるチェコを急きょ、訪問したことになる。少なくとも、10月中旬までは予定ではなかった。給油地を変更し、ホスト国の大統領不在中という外交上異例の時、チェコを訪問した。それほどチェコを訪問しなければならない理由が文大統領にあったことになる。
文大統領の金正淑夫人がプラハ城を見学中、文大統領は単独行動を取っている。そこで大胆に推測した。文大統領は金平一大使とプラハ市内ないしはホテルで密かに会合したのではないか。目的は、①金正恩氏に依頼され、そのメッセージを伝言するか、②金大使を南北融和路線に加え、朝鮮半島の再統一を話し合うことだった。
①は非現実的だが、問題は少ない、②は金正恩氏を困惑させるだろうし、ひょっとしたら、金正恩氏を激怒させるかもしれない。
ちなみに、②は金平一大使を北朝鮮の暫定指導者にするといったラジカルなシナリオも考えられる。換言すれば、文大統領は金正恩氏の報道官ではなく、独自の南北再統一構想を描き、その線で動いているということになる。
いずれにしても、文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」は、朝鮮半島の政情が動いていく中で次第に解けていくだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。