今年最も読まれた聖書の聖句は何?

長谷川 良

キリスト系オンライン「クリスチャン・トゥデイ」は10日、「無料聖書アプリ『ユーバージョン』によると、2018年に最も読まれた聖書の聖句は旧約聖書の『イザヤ書』第41章10節だった」と報じた。

「恐れてはならない、わたしはあなたと共にいる。驚いてはならない、わたしはあなたの神である。わたしはあなたを強くし、あなたを助け、わが勝利の右の手をもって、あなたを支える」

キリストの降臨を描いた17世紀オランダの画家ヘラルト・ファン・ホントホルストの作品「Adoration of the Shepherds」

「ユーバージョン」は、推定で約3億5000万台の端末にダウンロードされているアプリ。そのアプリで「今年最も多くブックマークされ、ハイライトされ、またシェアされた聖句がこの個所だった。米国内だけでなく、世界全体のユーザーの間でも、この聖句の人気が一番高かった」という。

この聖句は、自信を失い、苦しい状況に陥った人々、病の人、悲しみに打ちひしがれている人々に慰めと勇気を与えるだろう。この聖句が今年最も多く読まれたということは、現代人の多くが不安と恐れを感じながら生きていることを物語っている。

「イザヤ書」は旧約聖書の3大預言書のひとつであり、全66章からなる。紀元前8世紀の預言者イザヤの書だ。聖書学者によると、1章から39章までは第1イザヤ、40章以降を第2イザヤ、56章以後を第3イザヤと呼ばれ、複数の著者がいたとみている。上記の41章は第2イザヤの書ということになる。いずれにしても、読む者を奮い立たせる神の檄文ともいえる。

ちなみに、「ユーバージョン」によると、昨年世界で最も人気のあった聖句は、「ヨシュア記」1章9節だ。

「わたしはあなたに命じたではないか。強く、また雄々しくあれ。あなたがどこへ行くにも、あなたの神、主が共におられるゆえ、恐れてはならない、おののいてはならない」

「ヨシュア記」はイスラエルが神の約束の地カナンに入り、異教徒たちを次から次と倒していったイスラエル民族の歴史書だ。

「イザヤ書」も「ヨシュア記」も同じ脈絡にある。両聖句とも、苦しく、勇気を失い、立ち上がれない状況にある時、もう一度立ち上がる力を与えてくれる内容だ。卑近な表現をすれば、失望したり、絶望している選手に、「くよくするな、私がいる」と叱咤激励する熱血コーチの叫びだ。

ヨシュアはモーセと共にエジプトから神の約束の地カナンを目指したイスラエル民族の指導者だ。途中、水がなくなり、食料もない状況に陥り、イスラエル民族は「お腹が空いた、エジプトの方がよかった」といった不満を吐露。そのイスラエル人の姿を見たモーセは激怒し、神から与えられた石版を壊す。不信仰なイスラエル人の中で最後までモーセに従ったのがヨシュアであり、カレブだ。モーセの後継者ヨシュアはカレブと共に神への絶対信仰で神の約束の地カナンを奪還する。

LEDでライトアップされた都会の風景をみていると、物質的な生活環境は地上天国の寸前まで来ているようだが、「都会の砂漠」という表現があるように、そこに住む人々は物質的な恩恵に比べて、心は砂漠の中にあり、未来に対し、20世紀の人々が感じたような楽観的な思いになれないで苦しんでいる。

21世紀になれば、科学が神に代わり、われわれに輝かしい未来が開かれると予想してきたが、実際のわれわれは不安と恐れを感じている。クリスチャンたちは“21世紀のヨシュア”に憧れ、預言者イザヤの神の檄文で自身を奮い立たせようとしているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。