2018年、仮想通貨は試練の波に呑まれ続けました。
「億り人」が次々と出現し、「仮想通貨の時代来ました」といった前年のバブリーなムードは一変。
年明け早々、コインチェック事件で取引所から仮想通貨「NEM」の580億円相当が流出したことに端を発し、代表的通貨のビットコイン(BTC)の価格も続落。コインチェック事件の後も巨額の流出事件が世界各地で相次いだこともあり、昨年の今ごろ1BTCあたり200万円を超えていた価格は、50万円を割り込んでいます。金融庁はもちろんのこと、メディアからも厳しいまなざし。
この間、日経新聞の社説見出しのトーンを振り返ってみると…。
1月30日「取引所の安全を再点検しろ」
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2月15日「規律問われる仮想通貨業界」
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3月10日「業者の選別が必要だ」
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4月8日「出直し迫られる業界」
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6月27日「一から出直せ」
…う〜ん、どんどん厳しくなっていったのが一目瞭然です。そのあと、日経新聞では11月5日に久々に仮想通貨の社説が載り、「自律が試される業界」というタイトルで、ここから仕切り直しのムードになるのかと思ったのですが、直後にはじまった連載のタイトルが「宴の後」って。。。仮想通貨が「オワコン」になってしまっているじゃないですか(泣)
急速に市場価格が落ち込んだことに追い討ちをかけるように、取引を記録するマイニング業者(マイナー)が苦境に立っているという記事も最近は出てきました。
そんな中で、4月に始動した金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」が報告書のとりまとめへ佳境に入っています。おととい(12月14日)公表された報告書のドラフトによると、
・流出リスクや倒産リスクへの対応をはじめとする「顧客財産の管理・保全の強化」
・取引価格の透明性の確保などの「交換業者による業務の適正な遂行」
・問題がある仮想通貨の取扱い
・デリバティブ取引への規制のあり方
などの課題が指摘されました。いずれも全くその通りでまさに正念場です。
暗号資産への名称変更にみる一筋の光
たしかに現状は本当に厳しいです。しかし、一筋の光を感じている部分もあります。それは上記の研究会論点の最後にも言及されていますが、金融庁がここにきて国際的な動きもにらみ、仮想通貨の名称を、「暗号資産」に変える方向で検討しはじめたことです。
それは「投機的なイメージを変えたい」などといった表層的な話ではありません。そもそも「仮想通貨」という日本での名称自体が誤解を招き、結果的に投機的な扱われ方を助長してきたように以前から不満に思っていました。英語での通称は「crypto currency」(=日本語に直訳すると「暗号通貨」)です。
これは、暗号化された取引情報を、ブロックチェーンで記録する本来の意味を示したものですが、ブロックチェーンで取引されるのは、通貨だけではなく、土地や貴金属といったものも可能です。いや今後は医療機関が患者さんのデータをやりとりしたり、著作権や特許といった権利関係、行政機関が取り扱う所得情報や婚姻届のようなものまで記録・活用もできるでしょう。
3年前に僕が起業したのは、フィンテックの未来、中でもブロックチェーンや分散台帳の可能性を確信したからでした。銀行や証券会社などのこれまでの金融は「中央集権モデル」のために、少額の投融資がやりとりされないため、お金の「小回り」が効かず、金融の恩恵を享受できるのは、社会的信用や担保の大きな人に限られがちでした。
ユーザー本位のマーケットへ仕切り直しを
しかし、「分散型モデル」のブロックチェーンであれば、莫大な維持コストを運営者が負担する心配が少なく、少額を資産運用や投融資に利用しやすくなります。仮想通…もとい「暗号資産」を軸にした新しい金融の仕組みをつくることができれば、規模の小さい企業や個人が投融資を受けやすくなるなど、もっとお金の小回りが効き、めくり巡って機会や情報の格差を是正し、誰もがチャレンジできる社会を実現できます。
「仮想通貨」にネガティブな有識者やメディアの方も、ブロックチェーンの可能性まで否定する人はほとんどおられないようです。ここ数年の仮想通貨を巡る紆余曲折は、ブロックチェーンで世界が変わっていく中での序章に過ぎないのではないでしょうか。
とはいえ、目の前のハードルも一つ一つ超えていかなければ、未来はありません。仮想通貨相場の過熱にあって業界としても、ブロックチェーンの理念や、ユーザー本位の姿勢が薄れた中で「初心」に立ち返ることができるか、業界全体もユーザーも問われているのだと思います。
なお、弊社が1月15日に企画したセミナーを「仮想通貨『大反省会』~未来への緊急会議~」と題したのも、もう一度、足元を見つめ直し、未来を築きたいという思いからでした。
ちなみに無料参加で変な押し売りなんかしません(笑)。BS11「真相解説!仮想通貨ニュース!」でキャスターを務める堀潤さん、このほど仮想通貨税制を変える会を発足した参議院議員の藤巻健史さん、仮想通貨アプリ事業を手がけるgincoの森川夢佑斗さん、弊社を含め、数々のベンチャー企業のアドバイザーもされている外資系IT企業業務執行役員の澤円さんといった方々が登壇し、会場の皆さんとも双方向で仮想通貨あらため暗号資産のこれからを議論します…..と書いたところで、発表から半日で現在満席、キャンセル待ちで大変申し訳ないのですが、予想以上の反響に驚いています。
行政やメディアの方でも有識者の意見が集約されることも重要ですが、自律分散型のブロックチェーンの世界観を反映するように、ユーザーの方が声を上げるこうした場所が業界全体で増えていけたらいいのではないでしょうか。
いろいろあった2018年の仮想通貨でしたが、2019年の仕切り直しに向けユーザーの皆さまの期待がまだ根強いことを励みにしたいと思います。
姥貝 賢次(うばがい けんじ)カウンティアバンク株式会社、代表取締役公認会計士
学生時代からプログラマーとして活躍。卒業後は公認会計士となり、2008年、監査法人トーマツに入社し、会計監査やシステム監査へ従事。2014年に独立。翌年カウンティア株式会社を創業し、フィンテック分野に参入。2017年、株式会社VOYAGE GROUPとの合弁でカウンティアバンク株式会社を設立し、レンディングサービス「CoinOn」で仮想通貨事業に本格参入。