『幸せは搾取されない』(ポエムピース)を読んで

松崎さんのブログより

アゴラで書籍紹介記事を掲載してから出版社と知り合う機会が増えた。高円寺にポエムピースという出版社がある。社長の松﨑義行さんは、大手出版社の経営にたずさわるなど業界のベテランでもある。そして、書籍の切り口にいつも驚かせれる。

若くして自殺をした子どもの詩集を、両親のインタビューとともに刊行して世の中に自殺の悲惨さと命の尊さを訴えたり、プロ詩人家の視点で日本国憲法を読み解いて精神の気高さを訴えたり、「胎内記憶」に関する絵本を医師監修のもと発刊するなど。何しろ切り口が斬新である。

その、松崎さんが新刊を上梓した。タイトルは、『幸せは搾取されない(詩の時間シリーズ)』。銀色と白が輝く、特色4色刷の表紙をつかい質感高く仕上がっている。

作品の中で、松崎さんは次のように語る。「生まれた作品は、作者の知らないところで、新しい出会いを続け、たまに寅さんのハガキのように自分勝手な近況を伝えてくる。今回の本は、その、作品たちが津々浦々で出会った、作者は直接会ったことがない人たちへの手紙のようなものだ」と。

本書を読むと、慌しい日常から気持ちだけでも落ち着かせ、違う世界に思いを馳せたくなる。独特の世界観も興味深い。ここで一句紹介したい。

--ここから--
「ともだちのともだちのともだち」

ともだちのともだちにも
あったことがないから
ともだちのともだちと
ともだちのともだちのともだちとでは
どちらがいいともだちになれそうかは
わからない

だけどきっと
ともだちのともだちや
ともだちのともだちのともだちなら
きっとともだちになれるだろう

ともだちとはいいもんだ
ぼくはむねがあつくなる
あったことがないともだちのことを
かんがえると
きっと
あったことがないともだちも
あったことがないぼくにあいたがっている

かぜのうわさでつたえてよ
ぼくのうわさばなしを
ついでに
だれもしらないみらいのともだちに
--ここまで--

解釈は読者の皆さまにお任せしたいが、谷川俊太郎の『ことばあそびうた』(福音館書店)を彷彿させる。せんえつながら、松崎さんの世界観を表現する挿絵(例えば瀬川康男さんのような絵)がはいっていたら、さらに印象もかわっていたのではないかと思う。

最後に、松崎さんのあとがきを紹介したい。「本はただ真面目なものではなく、権威でもない、と私は思う。遠くに居て寄り添い、近くから語りかけ、語らずして語り、辛く当たっても怒らない友人のようなものだ。読者のあなたがこの本をどう思ってくださるか、本の向こうで私は胸をときめかせている」。

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員

※新刊情報(筆者11冊目の著書)
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