日本、メキシコ、シンガポール、カナダ、ニュージーランド、豪州、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、ペルー、チリの11ヶ国が参加する「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP11)」が本日0時に発効しました。世界GDPの13.3%、総人口5.1億人、貿易総額550兆円を抱える巨大な経済圏が誕生したのです。
日本への経済効果は莫大です。GDPは年7兆8000億円も押し上げられ、雇用も46万人増える見込みです。さらに、英国、台湾、タイなどが参加を検討し、世界の新しい経済連携体の土台(プラットフォーム)が生まれました。ここでは、世界におけるTPP11創設の意義を述べます。
私たち自由主義陣営が掲げる“自由”、“公正”、“公開”、“透明”といった理念・哲学とまったく異にする“国家AI(人口知能)資本主義”と言うべき異形の考え方に基づいた経済発展を猛烈な速度で進めている超大国、それが中国です。アジア・太平洋地域の諸国は、「中華経済圏」に併吞されることにより、政治・外交・軍事においても彼らに従わざるを得なくなることを惧れています。
TPP11は、その懸念を解消する具体的な処方箋を提示しました。つまり「中国に過度に経済的に依存することなく、自国の経済発展を実現できる」もうひとつの選択肢です。日本は最も遅れて交渉に参加した国という不利性を抱えながら、米国とそれ以外の国々との橋渡し役を見事に務め、2016年2月、米国を含む12ヶ国の署名に漕ぎつけました。
ところが2017年1月、就任直後のトランプ大統領はTPPからの離脱を宣言。米国を盟主とした巨大経済圏構想は一転して崩壊の危機に瀕しました。私は、2016年合衆国大統領選挙の予備選挙から「TPPからの離脱」を繰り返し言明していたトランプ氏の真意を掴むため、側近たちからの情報収集をワシントンD.C.で行っていました。2016年11月、マンハッタンのトランプ・タワーでの安倍総理とトランプ氏の初会談までに「残念ながら、離脱の公算が極めて高い」感触を掴んでいました。
これまで、合衆国大統領が決めた国際的な大方針を日本の首相が覆すことはまずありませんでした。でも、安倍総理大臣は違います。まったくぶれることなく、TPPの重要性を残りの参加国の首脳に力説して動揺を鎮めるとともに、“米国抜き”でも新TPP交渉を妥結することの必要性を粘り強く説きました。後世、今回のTPP11発効は、“安倍外交”の白眉の一つとして、評価されるだろうと私は考えます。
もちろん多国間の交渉事ですから、わが国の利益のみを叶えることはできません。どうしても影響が懸念される分野が出てきます。それをいかに極小化できるかが政治の指導力となります。
日本にとってTPP参加による懸念は、安価な農産物が国内に入ってくることです。農家の高齢化と相まって、日本農業の将来を案じる向きもあります。この点について政府・与党は、既にTPP交渉過程において強力な国内対策が必要との認識を持つとともに、むしろTPP参加を競争力がある“強い日本農業”をつくる好機と捉えてきました。いまの農林水産大臣は、TPP対策、農協改革、コメ・水田改革など重要な農政課題を自民党で実質的に取りまとめてきた北海道選出の吉川貴盛代議士です。安倍総理大臣、菅官房長官の信頼が極めて厚い吉川農水大臣のもとで、今後盤石な国内農業対策が執行されていきます。
先の臨時国会で成立した日本・EU経済連携協定(EPA)は、間もなく2019年2月に発効します。日本とEUのEPAは、域内の人口が6.4億人、世界のGDPの3割、貿易額では4割を占めます。太平洋地域でTPPによる大経済圏をつくる一方で、欧州とは世界最大の経済連携協定を結ぶ。トランプ大統領との間で稀に見る深い個人的な信頼関係を築きながらも、“米国一国主義”の流れをうまく牽制する“武器”を手に入れた安倍総理大臣。「お見事!」と、言うしかありません。
自民党総裁外交特別補佐、衆議院議員・河井克行(広島3区)
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