韓国駆逐艦が日本の海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題で日韓両国は激しい舌戦を繰り広げている。慰安婦問題や元「徴用工」(朝鮮半島出身労働者)への賠償問題で既に日韓両国間の信頼の絆は切れてきている。そして今回は、日韓両国の対立が初めて軍事領域まで広がってきたのだ。
日本の防衛省が激怒するように、韓国駆逐艦の哨戒機へのレーダー照射は非常に危険な行為だ。なぜならば、レーダー照射の次はミサイル攻撃を意味するからだ。日本の哨戒機パイロットが驚いたのは当然だ。日本側の抗議に対し、韓国政府側はさまざまな言い訳をして、悪意がなかったと説明する一方、日本側の批判を「過剰な反応」と逆に批判している。日本側に常に謝罪を要求してきた韓国側は自らの落ち度に対しては安易に頭を下げない。謝罪が如何に難しいか、韓国側は今回、知っただろう。
今回のレーダー照射事件の深刻さを理解するために、日韓両国間で何らかの軍事衝突が起きた場合を考えてみる。双方とも相手国に軍事攻撃をする意思はないが、怖いのは何らかの暴発事件だ。そうなれば火の粉は素早く広がっていくからだ。
ユーゴスラビアの民族主義者の青年が1914年6月28日、サラエボを視察に訪れていたオーストリア=ハンガリー帝国の帝位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺したことから、第1次世界大戦が勃発した。人類は歴史上初めて世界規模の戦争に突入した。昨年は第一次世界大戦終結100年を迎え、追悼式典が行われたばかりだ。
日韓両国の間で軍事衝突が起きた場合、韓国国内で反日感情は爆発寸前までヒートするだろう。日韓両国の衝突をみた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は間髪を入れず、「韓国の文在寅大統領の軍事支援の要請を受けた」として、北人民軍を韓国に派遣する。日本側は国連安保理事会の緊急開催を招請する一方、駐日米軍が日本側の支援要請を受けて出動態勢に入るが、その頃には北人民軍が既にソウルを掌握している。大量破壊兵器を有する北朝鮮軍に対し、米軍は在韓米軍兵士とその家族の避難を最優先するため、手が出せない。文大統領と金正恩委員長は素早く南北統一政府の樹立を宣言する。それを受け、在韓米軍は撤退を余儀なくされる、というシナリオだ。もちろん、中国軍の出方も無視できない。
上記のシナリオは決して荒唐無稽なものではない。歴史では常に想定外の「暴発」事件が起き、予想外の展開をもたらしたケースは少なくない。だから、日韓両国は照射問題で長い舌戦を繰り返さず、暴発事件が起きないように早急に危機管理に乗り出すべきだ。
暴発の危険は朝鮮半島だけではない。ロシアとウクライナ両国間も緊迫している。クリミア半島のロシアン併合(2014年3月)、ウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を隔てるケルチ海峡で昨年11月25日、ロシア警備艇がウクライナ海軍の艦船3隻を拿捕し、24人のウクライナ海軍兵士を拘束し、裁判のためにモスクワに連行。12月15日にはウクライナ正教会がロシア正教会から離脱など、両国関係は最大の危機を迎えている。ウクライナでは大統領選を今年3月に控える一方、国民経済が停滞しているロシアのプーチン大統領は国民に愛国心を訴えるため危険な冒険に走る可能性もがある。両国間で大規模な軍事衝突も考えられる。
一方、欧州に目を移す。今年3月末には、英国が欧州連合(EU)から離脱する。どのような形で離脱するかは目下不明だが、離脱後、英国経済ばかりか、EU経済にも計り知れないダメージが生じるだろう。経済的・軍事的に大国の英国の離脱はEUの政治力、外交力を大きく損なうことは明らかだ。EU自身、難民・移民問題への解決に腐心する一方、民族主義を標榜する極右政党の躍進がEUの統合を妨げる。5月に実施される欧州議会選の行方が注目される。
トランプ米大統領は今年1月から後半の2年間の任期に入るが、再選を狙うトランプ氏の行動は国内問題に一層時間が注がれるだろう。米国の朝鮮半島問題への関与も制限されてくる。外交ポイントを稼ぐより、再選のためには国内問題の対応が優先されるからだ。貿易問題で米国の攻勢を受けてきた中国はトランプ氏の動向を見守りながら、起死回生に出てくるだろう。
米軍がシリアから撤退した後の中東情勢にも目を離せられない。中東地域でのロシアの影響力拡大、イスラエルとシリア・レバノンとの関係、スンニ派の盟主サウジアラビアとシーア派大国イランとの対立、イエメンでの両国の代理戦争の行方など、中東情勢は今年も非常に流動的だ。
このように見ていくと、2019年の世界情勢は楽観的な予測ができない。何らかの暴発事件が起きた場合、世界情勢は一気に混乱し、指導者なき世界はこれまで経験したことがないようなカオス状況に陥るかもしれないからだ。国の危機管理が今ほど問われている時はない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。