情報社会より皇室の伝統が上位か
天皇退位に伴う新しい元号を4月1日に公表し、皇太子が即位する5月1日に改元されることが決まりました。情報システムの改修、事前準備に1か月は必要なのに、事前公表に猛反対した保守系の議員が少なくなく、社会常識よりも皇室の伝統を重視する人たちが政治的な影響力を持っていることに驚きました。
新年の新聞を読んでいて、こういう議員の行動に貢献する結果になっている政治記事がありました。そのことにも、驚いています。恐らく保守系の支援団体向けに「自分は最後まで頑張った」というポーズを、記事を通じて演出しようとし、メディア側も乗った。議員と記者のなれ合いでもあるのでしょうか。
7日の日経2面に「迫る代替わり」の記事が載りました。3日の読売3面にも「元号の公表は現天皇による公布」の記事があり、議員の実名、交渉相手の官房副長官の実名、やり取りした会話内容があまりにも似ているのです。議員本人が意図を持って、べらべらしゃべったと、解釈できます。
首相の説得も演出か
日経の記事はこうです。「保守系団体が頼みにしていたのは、衛藤晟一首相補佐官(参院議員)だった。/新天皇の即位前に旧天皇名で新元号を決めた例は過去に1度もない(衛藤氏)/首相官邸で何度も杉田氏(官房副長官)に詰め寄った」、「衛藤氏には首相自らが説得」などとあります。
読売はこうです。「首相補佐官の部屋に怒号が響いた。/どうして5月1日に新元号を決める政令を公布できないんだ(衛藤氏)/衛藤氏がにらみつける先には、古谷官房副長官補と近藤内閣法制次長がいた」、「安倍首相は官邸で衛藤氏と面会した」、「悩む首相の背中を押したのは麻生副総理だった」などです。
官邸側の官僚が情景描写を含めたやりとりを記者にまず、暴露しないでしょう。衛藤氏のほうが、自ら奮戦する場面を記者に伝えたと、推察するのが正解でしょう。衛藤氏は「日本会議国会議員懇談会の皇室制度プロジェクト」の座長です。日本会議は保守、右翼、生長の家の流れが入り混じった民間の保守団体、国民運動団体で、安倍政権の支援団体でもあります。
日本会議の流れか
衛藤氏は一貫して2次、3次、4次安倍政権の首相補佐官を務め、日本会議の序列では高位を保っています。奮戦ぶりを自ら伝えたと思われることの狙いは、日本会議に連なる支援者向けなのでしょう。1紙ならともかく、官邸内部での様子について、複数紙に酷似する記事が掲載されるとは念入りです。
官邸側が4月1日の事前公表を押し通したのは、省庁、自治体、企業がプログラムのシステム改修などを行うには、準備期間が必要と判断したためでしょう。「マイクロソフトの基本ソフトは全世界統一で4月は10日、5月は8日に更新される。一時検討された4月11日の改元では、4月10日を過ぎてしまっているし、5月1日の改元では5月8日までに準備が終わらない」との産経の記事もありました。
基本ソフトは大半の日本企業が導入しているそうです。コンピューター・システムの問題より、皇室の伝統(新天皇による元号公表)のほうが優先されるべきだというのが、衛藤氏や支援団体の考え方とすれば、恐ろしいことです。情報化社会から相当、遅れた人たちが安倍政権を取り巻き、政治を動かしている。元号の公表問題は、政治家の感覚のずれをよく示してくれました。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。