リスク回避の動きが強まるなか、米国での今年の利上げはあるのか

米国中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は4日、全米の経済学者が集まった会合の講演において、「市場は中国経済を中心に世界景気の下振れを不安視している。金融政策はリスク管理だ。迅速かつ柔軟に政策を見直す用意がある」と述べた。

3日の米国市場ではアップル製品の中華圏の販売低迷を受けて大幅安となり、ダウ平均は660ドルの下落となっていた。米10年債利回りは12月28日が2.72%、31日が2.69%、2日が2.62%、3日が2.55%と大きく低下しており。これは景気の後退を織り込み、リスク回避による米国債買いも示していたとみられる。

パウエルFRB議長(FRBフェイスブックから:編集部)

このリスク回避の動きに対し、パウエル議長は自らの発言によって緩和させようとしたものとみられる。昨年12月の米国の金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは市場は織り込んでいたものの、今年の利上げペースも維持させるような発言に対して市場は疑念を抱いていた。このためパウエル議長は発言の修正を行ってきたともいえる。

2016年の年初と同様に市場はやや景気減速に対して過敏になっている。たしかに原油価格が当時と同様に下落するなど景気減速の兆しが出ている。今回は中国など新興国だけでなく、世界経済を牽引してきた米国景気の減速懸念も出ている。このためアップルの業績などについて過敏になっているとみられる。現実に世界景気が減速傾向を示す可能性は高いとみている。

その原因のひとつともなっているトランプ政権が、今後、頑なな姿勢を崩すことは考えづらい。さすがに自らの言動が株価に影響していることにも気がついたのか、過激な言動はいまのところ控えられているが、米中貿易摩擦が完全に解消するようなことも考えづらい。壁建設の問題も長引けば米国債への信認などにも影響を与えかねない。

英国のEU離脱問題もある。日本では改元や来年のオリンピック開催など控えてお祭りムードも高まりそうだが、世界経済の減速傾向が顕在化すれば、日本経済にも影響を与えることになる。

金融市場はここにきて目先はやや動揺は収まったかにみえるが、予断は許さない。FRBの金融政策については、これまでのロードマップに即したような政策から、パウエル議長の発言にもあったように柔軟な政策に移行すると予想される。このため景気の回復基調が再び顕著となり、金融市場でのリスク回避の動きが後退するのを見定めない限りは、今後のFRBの利上げは当面停止される可能性がある。場合によると年内利上げが見送られることも予想される。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。