ジレットのCMが問い掛ける新たな”男らしさ”、全米で大紛糾

「最高を、男の手に(The best a man can get.)」

はい、P&G傘下の剃刀ブランドのざっと30年にわたって使用されてきたキャッチコピーです。こちら、セクハラ問題に立ち向かうキャンペーン#Metooにより、変革を迫られ対応しました。

その映像が、こちら

Twitterでも、ご覧になれます。


Gillette/Twitter)

ジレットが15日にリリースしたコマーシャルでは、「これが男性が手にする最高のものなのか」という問い掛けに合わせ、女性に嫌がらせをする男性、イジメを働く少年などの映像が次々に流れます。乱暴する少年達を眺め「少年は永遠に少年のまま(Boys will be boys)」と笑い合う父親の姿が現れた刹那、「何かが漸く変わろうとしている」というナレーションに合わせ、映像は#Metoo運動を伝える女性キャスターに切り替わるのです。

そして「私達は、最高の男性を信じる」という言葉とともに、女性に嫌がらせをはたらく男性を止める男性、息子の目の前でいじめの被害者を救済する父親が登場します。決め台詞は、こちら——「眼前にいる少年達は明日の男性である(The boys watching today… will be the men of tomorrow)」。

CMの言葉を借りるなら、”toxic masculinity=有害な男らしさ”を是正する内容と言えるでしょう。これが放映直後から、SNSを中心に全米で大紛糾を巻き起こしているのです。

“男らしさ”という定義を見直すきっかけを与えたとして支持する意見が聞かれる半面、一部ではこれまでの男らしさが全て悪しきイメージで塗り固められたと反論する状況。全米を真っ二つ引き裂くような議論、あなたはどちらに共感しますか?

アメリカ人の間で大論争を巻き起こす陰で、ジレットのコマーシャル内容を医学的にサポートしている団体があります。それが、アメリカ心理学協会(APA)です。

何とAPAは、ジレットが新CMを公開する直前に、“少年と男性に対する心理的治療のガイドライン(Guidelines for the Psychological Practice with Boys and Men)”を公表していたのです。新たなガイドラインによれば、長年に及ぶ研究で、“伝統的な男らしさ”、“マッチョ”たる既成概念と、少年あるいは男性の間での自殺、暴力行為、薬物乱用、心臓血管への悪影響などに結び付きがあることが判明したというではありませんか。

こちらの取材によれば、APAの首席はジレットとの提携の可能性を否定しつつ、CMを評価し「勝負にこだわるなどの”男らしさ”の価値観は、女性だけでなく、男性自身を傷つける場合もあっただろう」とコメントしています。

多様性が認められる時代だからこそ、”男らしさ”も千差万別であるべきなんでしょう。その一方で、既に”男らしさ”の多様性は浸透し、今では”メトロセクシュアル”なんて言葉すら死語になったように感じるのは、筆者だけでしょうか? テクノロジーの進化に伴い、”ITオタク=Geek”も、今となってはエンジニアなど成功者としての地位を確立してますし…。

(カバー写真:Umbrella Shot/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年1月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。