最近、安倍首相の名前が以前ほどメディアに上がってこない気がします。メディアに上がってこないというのは二つあって、上げるネタがない場合と上げないようにしている場合です。安倍首相にネタがないということは考えにくく、なにかみえない戦略があるように感じます。
首相としてはフルマラソンで30キロを超えてきたところぐらいでしょうか?ゴールを意識しながら残りのプランを考えるにしても首相が積み残している案件はあまりにも多い気がします。ロシアとの北方領土交渉、アメリカとの日米物品貿易協定(TAG)、北朝鮮問題、日韓問題、中国との外交関係といった外交問題のほかに憲法改正、消費税増税、東京オリンピック、アベノミクスの構造改革も道半ば、自身の後継者育成などもあろうかと思います。
ロシアとの北方領土問題の交渉を例にとりましょう。私は首相のロジックにやや強引さがあるように思えます。日本政府の従来の4島返還スタンスを一気に2島先行返還論に近い形にしました。
かつて2島先行返還論は何度かあり、一番有名なのは鈴木宗男氏、および元外務省の東郷和彦、佐藤優両氏が押し進めていた時のものが有名ですが、直ぐに潰されます。誰に潰されたかいろいろ言われてますが、個人的にはアメリカと外務省北米スクールだったと認識しています。
北方領土問題は極端な言い方をすれば日本の主張というよりアメリカの都合で勝手に振り回されてきた、というのが実態です。もともとは2島だけ、それが4島に、そしてまた2島に戻ってきており、時代の流れとともに日本の世論の受け止め方も変わってきているとも言えるのでしょう。つまり、安倍首相はアメリカとの下地を既に作ったうえでの2島先行返還論をしているのかもしれません。
確かに今、「時の風」が吹いているのかもしれませんが、政府だけが突っ走っている感は否めません。すごく焦っている、そう見えるのです。もちろん、私は交渉はどんどん進めるべきだと思いますが、その進め方にやや違和感がないとは言えません。
日韓問題も結果を急いでいます。多分、日米物品貿易交渉もそうでしょう。なぜ急ぐのかといえば上述のように残りの任期に対して積み残しが出そうな感じがあることと最後の大物、憲法改正に向けた道筋がまだかなり遠いからだろうと思います。
安倍首相はG7の中では最古参の一人として世界の主要国リーダーの中でも誰もが知っている日本の首相として君臨しています。確かに歴代の日本の首相としても誰もが成しえなかったわけで、大首相の名にふさわしい方だと思っています。しかし、私はこのところ、外交に関しては拙攻というか攻め方が雑な気がします。
その結果、雰囲気としては海外における日本のポジションが逆に弱まっている感じがします。
IWC(国際捕鯨委員会)を脱退したのは今でも間違いだと思いますし、レーダー照射問題の国際世論を日本側に引き寄せる対応もちょっと違った気がします。ロシアのラブロフ外相と北方領土問題について温度差があるとする点に関して日本はロシアとの交渉が難しいという論調ですが、実際には日本側が難しいのではないかと思う時もあります。
私は積み残しが出ても構わないと思っています。それよりも安倍首相が悔いのない結果を残すべきだと思っています。できるものだけ、3つでも4つでもやればいいでしょう。日本がそれで消えてなくなるわけではないのですから。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月18日の記事より転載させていただきました。