いま、メディアでもっとも注目される「ロボット界の若き鬼才」が初めて語る人間とメカが高度に融合し、リアルとネットの境界線が消える、来るべき未来の全容とはなにか。今回は『サイボーグ時代~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略~』(きずな出版)を紹介したい。
著者は、吉藤オリィ(吉藤健太朗)さん。工業高校にて電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞、ならびに世界最大の科学大会ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。米Forbesが選ぶアジアを代表する青年30名「30 under 30 2016」などに選ばれ、現在はデジタルハリウッド大学院で特任教授も務めている。
人は「だれかのため」なら積極的になる
吉藤オリィさんは、目の前に課題に対して、テクノロジーの組み合わせで解決しようと試みる。この手法によって多くの可能性が導き出される。
「身体障害を持った人が別の身体障害のある人をサポートし合えるようになると、なにが起こるか?目の見えない人は、ベッドから動けない人の役に立てるようになる。これまで目が見えない人は場合によっては介助者や周囲の人に迷惑をかけてしまうのではないかと考えてしまい、外出に躊躇してしまいやすかった。」(吉藤オリィ)
「しかし自分の外出がだれかのためになるのだから、これまでよりも積極的に外出する理由ができる。ベッドから動けない人にも負い目はない。たとえ目の見えない人が自分のために外出してくれたとしても、その人の目の代わりになって信号をみたりタクシーが来ていることを教えてあげたり、さまざまなサポートをすることができる。」(同)
吉藤オリィさんが、開発にかかわったサービスで『wheelag!」というものがある。これは、スマートフォン用のアプリで、車椅子ユーザーを中心に利用が広がっている。
「アプリを起動し、車椅子で外出すると、その人の通ったルートや、エレベータやトイレなどのバリアフリー情報がアプリ上で登録者に共有しあえる。これを見れば、初めて行く土地でも、どんなルートなら車椅子で走行できるのか、どんな施設に車椅子用のトイレがあるのかなどがわかる2018年末時点で全国1万ヶ所以上のバリアフリースポットが登録されており、多くの車椅子ユーザーに利用していただいている。」(吉藤オリィ)
障害者支援のあり方が変わるかも知れない
心身に障害をもつ人が社会参加を果たすためには、さまざまな「壁」がある。物理的な壁や制度上の壁は、政治や行政の努力で取り除くことができる。しかし偏見や差別など、社会に根付いている「心の壁」を取り除くためには、社会福祉の概念を根本的に見直す必要性があり、それは社会を変革するという時間のかかる課題でもある。
障害を持つ人たちが社会構成員の一員として、社会の恩恵を等しく受けることができるノーマライゼーションを実現するには、社会福祉や社会のあり方の概念を変革する途方も無い作業が必要になる。そこに生きる人の心が貧しい社会であっては、ノーマライゼーションを創造し実現することはできない。
内閣府の「平成29年度 障害者白書」によると、身体障害者は392万2000人、知的障害者は74万1000人、精神障害者は392万4000人とされている。国民の6%が何らかの障害を有するとも言われる中、障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもある。
なお、筆者は表記について「障害者」を使用しており「障がい者」は使用しない。過去に、多くの障害者が権利を侵害されてきた歴史が存在する。それらの歴史について、言葉を平仮名にすることで本質が分かりにくくなる危険性があるため「障がい者」を使用しない。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※新刊情報(筆者11冊目の著書。発売2週間で3刷)
『即効!成果が上がる文章の技術』(明日香出版社)
[本書の評価]★★★★(80点)
【評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満