医療現場で失われているHumanity

昼過ぎから風もでて、寒くなってきた。ちなみにシカゴはどうなのかと思って、天気予報を見た。調べた時点での気温マイナス19度に体がすくみそうになったが、30日の予想はなんと最低気温マイナス30度、最高気温がマイナス24度だった。こんな所で、6回も冬を過ごして、生き延びてきた自分が誇れるような気がする。

写真AC:編集部

最近、講演会が多く、いろいろな医療関係者や患者さんと話をする機会が増えてきたが、「医療現場からHumanity(人間性)が失われている」という患者さんの声が多くなってきたように思う。一般病院の医師から私に対して、「がん拠点病院は標準療法が尽きた途端に患者さんを突き放すことをやめて欲しい」との訴えもあった。私はこのような医療体制に対する批判を繰り返しているが、世の中は変わりそうにない。これは行政と築地のセンターが動かないと変わらない。

標準化は決して間違っているとは思わないが、極端なマニュアル化が進みすぎたために、「検査結果は見るが、病人は診ない医療」となってしまっている。このような状況になった背景には、医師のさじ加減が効きすぎて、バラバラで科学的でない医療が行われてきた反省がある。そして、医師が治療行為に対して、どこまで責任を持つべきなのかという課題もあった。モンスター患者・家族の理不尽な行き過ぎた医師への責任追及も、行き過ぎたマニュアル化が進んだ一因だ。

標準的なマニュアルに沿って提供した治療で、予想外なことが起こっても、マニュアルが医師を守ってくれる。しかし、標準療法から逸脱していれば、リテラシーに欠けたメディアが大騒ぎする。

「がんゲノム医療=分子標的治療薬を見つけること」と単純化して、世界から取り残される状況を招いた責任はどこにあるのだろうか?またく世界が見えていない、あまりにも世間知らずな発想だ。繰り返して述べているが、がん医療は、「ゲノム・免疫療法・人工知能」を軸に大きく動いている。しかし、私がプログラムディレクターを務めている人工知能病院プログラムには、ゲノム研究を取り入れることができない。行政の縦割りの弊害の最たるものだ。国益よりも省益や利権が優先する愚を、いつまで続けるのだろうか?

こんな統一感のない施策が続いている中、財務省から2018年の貿易統計の速報値が公表された。下記に示すのが医薬品貿易統計だ。昨年は、赤字額は少し減少したが、今年はまた増加に転じた。輸出額は6487億円とはじめて6000億円をこえたが、輸入額は約3000億円増の29431億円と過去最高を記録し、赤字額は4年連続で2兆円を上回った。厳しい現実だ。

と愚痴っていたら、大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝した。字は違うが、大阪出身の私として、そして、日の丸主義の私としては、素直に喜びたい。と言っても、相手は強盗に襲われて利き腕に負傷を負い、そこから復活した選手なので、テレビを見ながら、どちらを応援していいのか、心の中では葛藤があった。そして、大坂選手が第2セットであと1歩のところでの勝利を逃して逆転された時に涙ぐんでいたので、ハラハラドキドキしていたが、見事に立ち直った。精神的にも格段に成長したようだ。

人間性が失われた標準療法との闘いも、今日の大坂選手のように粘り強く頑張っていくしかない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。