ローマ法王フランシスコは3日から5日まで法王として初めてアラビア半島のアラブ首長国連邦(UAE)を訪問する。バチカンはローマ法王のUAE訪問を「アラブ人がローマ法王を初めて招いた歴史的な旅」と受け取っている。なお、UAEはローマ法王の訪問を私的訪問とし、公式訪問とはみなしていない。
アラブ首長国連邦はアブダビやドバイなど7首長国から構成された連邦国家。フランシスコ法王はUAE滞在中、現地のカトリック教信者のほか、UAE政府首脳やイスラム教代表と会合が予定されている。
バチカン・ニュースが先月31日報じたところでは、フランシスコ法王は同日、訪問に先立ち、UAEの国民にも向かってビデオメッセージを送った。
そこで法王はUAEを「人間の共存のモデル国、多様な文明文化が出会う場所であり、多くの人々が安定した職場を得、自由に働き、生活し、相互尊重している国」とホスト国を称賛し、「われわれは宗派は異なるが兄弟姉妹だ」と強調し、異教のUAEを訪問して宗派間の対話ができることに感謝を表明した。同法王は4日、世界で6番目に大きいモスク、シェイク・ザーイド・モスクでイスラム教協議会の長老たちと会合する。
ホスト国への誉め言葉は外交上重要だが、UAEが石油生産に完全に依存したレンティア国家(レント収入に依存する国)であり、自国民は勤労せずに、外国人労働者を安い賃金で働かせて運営してきた国家だ。他のアラブ諸国では政権に反対する反政府デモ、民主化を要求する“アラブの春”が起きたが、UAEでは反政府デモは起きていない。国民は現体制に満足しているからだ。ちなみに、UAEでは自国民は全体の13%前後で、外国人国籍者は87%を占める。彼らは多くは出稼ぎ労働者だ。
UAEはアラビア半島のイスラム教国だ。ローマ法王がその異教徒の国に訪問する場合、純粋な司牧訪問というより、他宗教との超教派活動が重視され、政治的な思惑が優先されがちだ。UAEのイスラム教は穏健だが、フランシスコ法王は失言や脱線発言に要注意だろう。
前法王ベネディクト16世が法王就任の年(2005年)の9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し「モハメットがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けたことがあった。
ローマ法王のUAE訪問のハイライトは最終日の5日、アブダビのザーイド・スポーツ・シティ競技場( Zayed-Sports-City-Stadion)での記念ミサだ。UAE政府は先月29日、法王の記念ミサに参加を希望するキリスト信者の労働者は礼拝参加カードを所持している場合、その日を休日と認める決定を下している。少数派のキリスト信者への配慮といわれる。
なお、バチカン放送によると、フランシスコ法王のアラビア半島の初訪問を取材するために70人のジャーナリストがローマからアブダビに同行するという。
フランシスコ法王は先月、パナマで開催された「世界青年の集い」に参加したばかりだ。バチカンとUAEの間に大きな懸案がないだけに、「キリスト教の最高指導者フランシスコ法王がアラビア半島のアブダビを初めて訪問した」という事実が今回のUAE訪問の成果といえるだろう。長期的に見れば、UAE訪問はイスラム教スンニ派の盟主、サウジアラビア訪問への布石、と評価できるかもしれない。
問題は今月21日から始まる世界司教会議議長会議が控えていることだ。ローマ・カトリック教会が現在直面している聖職者の未成年者への性的虐待問題への対応が話し合われるからだ。それまでの僅かな時間、フランシスコ法王はアラビア半島のレンティア国家、UAEの異教の文化を肌で体験するわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。