選挙制度からみる、維新と都民ファーストの違い

堀江 和博

大阪維新の会と都民ファーストの会。この両者は、東京・大阪という二大都市において、橋下・小池という政治的カリスマを擁し、議会を席捲した地域政党として、しばしば比較の対象となってきた。

ツイッターより:編集部

その際の問いの多くは「なぜ維新の会は、幾多の困難な局面があったにも関わらず、議席数を確保することができたのか」というものである。過去を振り返れば、名古屋の減税日本など多くの地域政党が発足した。しかしそのいずれもが一時的には議席数を確保するものの、最終的に減らすのが常であった。

維新の成功については、様々な要因が議論されている。メディアを巻き込む「橋下氏個人の発信力」に依拠したものから、都構想という「政策目標の持つメッセージ性」に着目したもの、はたまた「維新の多くが自民党からの鞍替え議員であり地盤が形成されている」といったものなど様々である。

本稿では、それらミクロ的な分析から少し離れ、「選挙制度」というマクロの視点から分析を行ってみたい。

先行研究を踏まえつつ、大阪維新の会の台頭をもたらす要因の一つとなった選挙制度(選挙区制)の特徴について述べ、それらを踏まえ東京都議会についての考察も加えたい。

小選挙区制と大選挙区制の違い

まず、基本的な選挙区制とそれが議会の議席にどのような影響を与えるのか確認をしておきたい。

小選挙区制とは「1人区」のことを指す。つまり、選挙区から1名の候補者しか当選ができないため、他の候補者は全て落選することになる。現在の衆議院選挙をイメージしてもらえばよいが、最も多く支持を集める政党の候補者が当選するため、一部の政党に議席が集中しやすい制度と言える。

そもそも、衆議院選挙の小選挙区制は、アメリカを例に政権交代可能な二大政党制をイメージして、1994年から導入された制度である。支持を集めた政党に議席が集中しやすいことから、民主党の政権交代や自民党の政権復帰時の選挙のように、オセロの石が全てひっくり返るようなことが起こりうる。

一方、大選挙区制とは「複数区」のことを指す。選挙区から2名以上の候補者が当選することができ、多くの自治体議員選挙はこの大選挙区制となっている。一定の支持を集めさえすれば当選できるため、多くの支持を集める政党の候補者のみならず、中小の政党候補者も当選する可能性がある。

ただし、大選挙区制は多党制へとつながりやすいため、議会において1つの政党が過半数を占めないことも多い。与党は、他党と連立を組むなど政治的に譲歩することも増えるため、場合によっては求心力を低下させることにもつながりかねない。

大阪府議会の選挙区はどうなっているか

それでは、大阪維新の会が第一党の大阪府議会について考察する。砂原庸介は、維新の会が成立・存続しえた理由として「大阪府議会の選挙区制」にあると指摘している。実のところ、大阪府は他の都道府県と比べて領域が狭い割に自治体の数が多く、府議会の選挙区制は「小選挙区制」に近い状態なのだ。

(砂原庸介「領域を超えない民主主義?広域連携の困難と大阪都構想」『アスティオン』84号2016)

筆者作成

上記のように定数1の選挙区が非常に多い。加えて、2011年から選挙制度改革を行った結果、さらに小選挙区制のような状態が生まれた。府民からそれなりの支持を得ていた維新の会は、小選挙区という制度にも支えられ、厳しいとされた2015年の統一地方選挙においても過半数に近い議席を獲得した。

過半数に近い維新の会はイニシアティブをとることができ、議員の政党に対する求心力を働かせることができた。また、同じ小選挙区制の衆議院選挙に進出し議席を得ることで、国会議員・府議・市議の政党としての一体感を維持することを可能にした。

大選挙区が多い大阪市議会においては過半数を得ることに苦戦はしたものの、国政経由で自民党や公明党と交渉することを可能にし、住民投票協議における公明党の支持を取り付けることに成功した。

まさに、「小選挙区制」中心の大阪府議会(や衆議院選挙)で競り勝ってきたことが、議会での優位性を生み出し、政党としての一体感や存在感を維持することを可能にしてきたと言える。そういった意味では、多党制を形成しやすい「大選挙区制」ではなし得なかった結果だとも言える。

東京都議会の選挙区はどうなっているか

では次に、都民ファーストの会が第一党である東京都議会の選挙区制はどのようになっているのか確認してみたい。

筆者作成

大阪府と比較し、東京都は「大選挙区」が中心であることが分かる。このことから言えるのは、都議会は多党制を形成しやすい選挙制度にあるということである。そういった意味からすると、そもそも都議会では一党単独で議会の過半数を得ることは難しく、他党と連携し、連立をいかに組み過半数を形成していくかがが重要なテーマとなる。

加えて、「デュベルジェの法則(選挙において候補者数が次第に収束していくとする法則)」を強引に当てはめれば、都議会選挙区においてもっとも定数が多いのは8議席(大田区・世田谷区)なので、「定数+1」が有効政党数であることを踏まえると、理論上は「9つの党派」が有効政党として議会で存続しうる計算になる。なお、現在の都議会会派数はその「9」である。

以上のように多党制を形成しやすい都議会においては、他会派との調整や交渉を通じて、議会を運営していくことが本来的に選択すべき戦略と言える。大阪維新の会のパワープレーのような戦略を用いることは得策ではない。

さいごに

大阪維新の会が台頭した背景には、本稿で紹介した選挙制度の他にも、大阪を取り巻いた不況や政治的不満などの要素、大阪の都市政治固有の問題、橋下氏の衆議院選挙出馬をちらつかせたいわゆる「有効な脅し」といった政治的交渉の手法など、様々な要因が考えられる。そういった意味では大阪の特殊性は確かに存在し、安易に東京に持ち込むことは難しいと思われる。

しかし、忘れてはならないことは、様々な要因が分析されたとしてもそれは「結果論」に過ぎないということである。最も重要なことは、「大阪の有権者が維新の会を支持した(している)」という明らかな事実である。一票一票を持つのは有権者なのであり、有権者のもとに全ての答えがあることを忘れてはならない。

堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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