来年選挙に向けた“宣戦布告”
慣例では、歴代大統領の『一般教書演説』は約45分間ですが、昨日のドナルド・トランプ大統領はおよそ80分間行いました。全米のメディアが中継し、テレビ視聴率はおそらくスーパーボールに匹敵したと考えられます。数千万人の有権者に訴えられる絶好の機会を活用して、トランプ氏は、来年の大統領選挙を見据え、表面では民主党に「融和」を呼び掛けながら、実際には“宣戦布告”を発したのだと、演説を見終えた私は強く感じました。
表向き「融和」の呼び掛け
昨日の演説は、無党派層からは肯定的に評価されるでしょう。うまくいけば、「民主党は抵抗するばかりの政党だ」と思う有権者が増えるかもしれません。インフラや医療関係の政策など民主党が好む分野でトランプ氏が「融和」路線を唱え続けると、民主党は対応に苦しむでしょう。「自分たちと同じ政策なのに、なぜ民主党はトランプ政権の邪魔をするのか」と批判されるからです。この点をうまく突くことができれば、トランプ氏が実行したい政策を達成できる可能性はあります。
でも、マッラー特別検察官による千ページ近くにも上るとされる『ロシア疑惑調査報告書』が遠からず公表されるや否や、民主党は下院を根城にして、激烈な政権打倒を仕掛けてくるのは間違いありません。 当然、トランプ陣営は何があろうとも再選を勝ち取るため、民主党の企みに全力で対抗します。“unity(団結)”とか“coming together (力を合わせて)”とか“compromise(妥協)”などという単語は、演説の中でしかない美辞麗句です。
結局、「壁」はどうするのか
年明けから民主党の大統領予備選挙への立候補表明が相次いでいます。既に来年の大統領選挙の号砲は鳴っています。今回の演説で、トランプ氏が選挙戦に向けて“闘う姿勢”をしっかりと見せたことを、大統領の支持者たちは高く評価していると考えます。
一方で、国境の壁の建設をめぐっては、言及がいまひとつはっきりしません。公約実現を求める支持者と、「壁」建設絶対反対の野党民主党が多数を占める下院との板挟みになっているトランプ大統領の苦悩がよく伺えます。
これまでと変わらない主張をしたことで、左からは「行き詰まっている」と批判され、右からは「甘い」と糾弾されています。トランプ大統領の真意は、「壁」の神学論争を一日も早く終わらせたいのでしょうが、そう簡単にはいきそうにありません。
以前にも述べたとおり、このままでは、国防予算から「壁」の建設費を捻出する「国家安全保障非常事態(National Security Emergency )」を宣言するほかに、難局を打開する道はないと考えます。
バノン氏が説く選挙公約と『演説』の深い関連
一昨夜私は、大統領選挙でトランプ候補選挙対策本部長を務め、今なお大統領に影響力を持つと言われるスティーブ・バノン前大統領首席戦略官に今回の『一般教書演説』の感想を尋ねました。彼は、選挙公約と『演説』との深い関連を説明してくれました。
トランプ氏が2016年大統領選挙に勝てた最大の要因は次の三つの公約、1.Immigration (移民)、2.Trade(貿易)、3.Ending Wars(戦争の終結)、だと言うのです。
これらの選挙公約を実現するために、トランプ大統領は『一般教書演説』で、
- Build the wall(壁の建設)
- Forcing ‘structural’ changes in china trade deal(中国との貿易交渉を“構造的”に変える)
- Pulling out of Syria and Afghanistan (シリア、アフガニスタンからの米軍撤退)
という決意を示さなければならなかったのだ、と彼は解説しました。
「Trump now needs to take action and keep those promises(トランプ大統領にいま必要なことは、行動と選挙公約の遵守)」だと、バノン氏は私に強調しました。
月曜日にも「国家安全保障非常事態」宣言か
トランプ大統領は、演説の中で「壁」に触れたテキサス州エルパソをさっそく11日(月)に訪問します。昨秋の中間選挙後初となるMAGA(Make America Great Again)ラリーを行います。ちなみにエルパソは、民主党の大統領候補のひとり、ベト・オルーク氏の地元です。野党批判全開の大統領選挙演説ツアーがいよいよ幕を切るのです。
「次の大統領選挙で勝利を収めるには、とにかく公約を実現するしかない」。これが政権中枢の共通した認識です。国境に壁を作る連邦予算案の成立を下院民主党が容認しないかぎり、トランプ大統領が来週月曜日夜、視察先のテキサス州エルパソで「国家安全保障非常事態」を宣言するかもしれません。
だからこそ、今回の『一般教書演説』でトランプ大統領は、「非常事態宣言」の必要性を強く訴え、「宣言」発出の正当化を図るとともに、ホワイトハウスが「融和」の呼び掛けをしたのに民主党が拒否したとの「アリバイ工作」を行いたかったのだと、私は推測します。
アメリカの政治は、重大な局面を迎えようとしています。
自民党総裁外交特別補佐、衆議院議員・河井克行(広島3区)
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