資本の自己増殖は、資本主義経済の成長の動力である。しかし、資本蓄積につれて資本利潤率は低下し、最終的に資本利潤がなくなるときがくる、これが恐慌であり、ここで資本の自己増殖は終わり、資本主義は死を迎えて、革命が起こる、これがマルクスの予測だが、予測は外れた。
資本主義体制が今日まで生き永らえている背景には、経済の自律的展開に政治が介入することで、福祉国家路線等の巧みな軌道修正のなされていることもあるが、より重要な要因は技術革新であろう。
マルクスも想像し得なかったことは、とどまるところを知らない技術革新である。エネルギー、通信、情報処理、交通、医療、宇宙、海洋開発、ありとあらゆる分野で技術革新が進んでいる。革新へ向けた巨大な投資が資本を常に活性化させてきたことは、資本主義体制を支える重要な要因だったのである。
革新は、科学技術の問題だけでなく、社会工学的な組織の革新、所有権と利用権の再編などの法律制度の革新、造形等の表現の革新など、多方面に及ぶ。例えば、規制緩和と農業の関係についていえば、科学技術的革新よりも、社会制度的革新によって、農業の成長を図ろうということなのであろう。
革新の継続によって、資本は活発に働き続け、資本蓄積にもかかわらず利潤を確保するであろう。しかし、より高い資本利潤を求めようとするとき、資本は独占資本に転化せざるを得ない。独占により生産と価格の支配を握れば、不当な利潤を確保できるからである。
かつて、独占は生産手段の独占であった。しかし、現代において、独占は技術の独占である。ひとたび独占を許すと、既得権益のうえに安住した独占資本は、自らの革新を怠るだけでなく、外部の革新によって地位を脅かされないように、その革新の芽を早期に摘むことに熱心になるであろう。そうなれば、革新は終わり、資本主義体制は最終的に崩壊する。
故に、先端技術を独占的に支配する超巨大化企業の動向が問題視されるのである。しかし、他方で、技術の公共化は、技術革新がもたらす利益という革新への利益誘因を減退させるであろう。技術革新なくして成長なく、技術革新あっても独占で成長なし、資本主義は、最終的に、大きな転機を迎えつつあるのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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