細野豪志氏が二階派入りしたことが話題となっている。彼の行動への評価については他に譲ることとし、ここでは、彼を受け入れた二階派という存在の現代的な機能について若干論じてみたい。
これまで二階派は細野氏以外にも、無所属議員を何人も受け入れてきた。郵政民営化に反対し自民党を離党した小泉龍司氏、民主党政権で復興大臣を務めた平野達男氏、同政権で外務副大臣を務めた山口壮氏、自民党内の公認争いで無所属となった長崎幸太郎氏らである。彼らに共通しているのは、自民党への入党を希望しつつも過去の経緯や党内事情によってすぐにはそれが叶わず、無所属で活動している所に二階氏が手を差し伸べたという点である。ここからは、二階氏の「来る者は拒まず」という姿勢によって二階派が保守系政治家たちの駆け込み寺になっていることが分かる。
二階派の働きをもう少し一般化すると、自民党という組織の内と外をつなぐインターフェイスとしての機能が浮かび上がってくる。「インターフェイス」とは接触面・中間面といった意味であり、異なる二つを仲介する働きを持つものを指す。IT業界ではコンピュータと他を接続する共用部分という意味でよく使われるが、人間や組織にも準用でき、政治行政の文脈でも度々使用されるようになっている。
例えば、米国政治において政策系人材が政府・議会等の統治機構とシンクタンク・大学等の民間組織を往復しながら自身のキャリアを形成していく時、「リボルビング・ドア」を通って公的セクターと私的セクターの間を行き来する、と表現するが、ここでは「リボルビング・ドア」がまさに統治機構と民間組織、すなわち、国家と社会のインターフェイスとして機能しているのである。
二階派は基本的に自民党議員によって構成された自民党内の派閥であるが、上記のように自民党外の政治家も積極的に受け入れてきた。その際に彼らに与えられるのが「特別会員」という資格であり、小泉氏や山口氏、そして今回の細野氏も、これによって自民党外の政治家でありながら自民党の派閥である二階派のメンバーシップを獲得した。このように、二階派、とりわけ、そこにおける「特別会員」という資格が、自民党の内と外をつなぐインターフェイスとして働いているのである。
異なるもの同士は、異質であるが故に、それらが結びついた時にはそれまでには存在しなかった多様性が確保され、それが大きなイノベーションを生む土壌となる。インターフェイスが重要であるのは、まさにこのような、組織や社会を活性化させる多様性をもたらす点にある。上に挙げた「リボルビング・ドア」が好例である。これの存在によって、米国で政策形成に携わる人材が公的・私的セクターの双方を自由に行き来できることが担保され、彼らは失職するリスクを大幅に低減させることができるため、結果として、様々なバックグラウンドを持つ多様な人材が政治行政に集まってくるのである。
二階派がインターフェイスとして果たす機能も、二階派自身、そして自民党や保守政界全体にとって極めて重要なものとなっている。かつての民主党にも政治思想的には保守に区分される政治家が多数所属していたと推察される。細野氏、平野氏、山口氏などはその典型例であり、与党時代のバラマキや最近の野党共闘路線等、政策的にリベラル化する党に嫌気がさした彼らを受け入れ、保守のネットワーク内に取り込んだのが二階派だったのである。
異なる政党に所属し異なるキャリアを辿ってきた彼らは、もともとの自民党議員とは、当然、持っている経験も人脈もスキルも違う。同じ保守という基盤に立ちながら異質な部分を持つ彼らは、二階派という派閥にこれまでにはなかった多様性をもたらすはずである。そしてそれは、二階派という派閥を抱える自民党という組織自体にも影響するものであろう。もともと自民党は、色々な考え方を持った政治家がぶつかり合い、化学反応を起こしながらその活力を保ってきた組織であった。多様性こそが、自民党の本質であり強さだったのである。
しかし、政治には複雑な人間関係や利害対立はつきものであり、その自民党でさえ、少なくともすぐには内に取り込めない人間もいる。そんな時、党に代わって多様性確保の機能を果たすため党外とのインターフェイスの役割を担っているのが二階派なのである。
このような、組織の内外をつなぐインターフェイス機能は、民間企業においても活用されている。例えば、シリコンバレーの企業では「アライアンス雇用」という雇用様式が採用されることがある。そこでは、働き手は期限を定めてプロジェクトに従事し、終了後は、退社するか企業に残って次のプロジェクトに携わるかを決める。退社した場合も働き手と企業の「終身信頼」関係は続き、これの集積である「働き手ネットワーク」が、日常的な情報交換・交流といった形で企業と働き手の双方の資産となるのである。日本でも「アルムナイ」と呼ばれる元社員の同窓会ネットワークが注目されており、新たなビジネスチャンスを得るための方策の一つとして、三井物産やヤフー等、大手企業でも活用されている。
これらが企業の内と外をつなぐインターフェイスとして機能していることは明らかである。高度に多様化・複雑化した現代において、企業内だけで全てを行うことは難しい。しかし、完全に組織をオープンにして誰かれ構わず受け入れてしまえば、もともとの文化や伝統が失われる可能性もある。ある程度の同質性を保ちながら外部の活力を取り込むには、「外を知っているかつての仲間」が丁度よく、それを準制度化してインターフェイス機能を持たせたのが上記の例なのである。
二階派は、このような組織活性化の方法を政治の世界で実践する、極めて先進的で自己発展戦略に長けた集団である。保守という共通基盤の下、様々なバックグラウンドを持つ人材を集めることで多様性を確保し、そこから生まれる活力が、派閥自体、ひいては自民党全体の活性化をもたらしている。「来る者は拒まず」であると同時に「去る者は追わず」であるならば、派閥を中心にしてその内外に、現・元(そして潜在的な未来会員も加えた)「二階派ネットワーク」が広がり、それが保守勢力それ自体の拡大・発展につながっていく。山梨県知事に当選した長崎幸太郎氏はまさに二階派の「アルムナイ」であり、今後も何らかの形で「二階派ネットワーク」のメンバーとしての役割を果たしていくのではないかと推察される。
自民党の派閥には、「総裁選の候補者擁立」「国政選挙の候補者擁立」「政治資金の調達」「ポストの配分」等の機能があるとされる。現在の二階派の動きは、これらに加えて、自民党の内外をつなぐ「インターフェイス機能」が追加される可能性を示唆するものと言える。そして、それは組織を活性化させる「多様性」という不可欠の要素を担保し、基本的な価値観を共有する人的ネットワークを拡大・発展させる作用を有するものである。この機能が二階派自身の勢力拡張につながることは当然である。
しかし、「多種多様な人材を擁する保守政党」が自民党の本質であるならば、二階派が担うこの機能は、そんな自民党を補完し、その特性を促進する働きをも持っていると言える。このような派閥を抱えているからこそ、自民党の多様性は維持されているのであり、それ故に自民党は強いのである。
蒔田 純(まきた・じゅん)弘前大学教育学部 専任講師
1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策担当秘書、総務大臣秘書官、新経済連盟スタッフ等を経て現職。北海道厚沢部町地方創生アドバイザー。jun.makita.jun@gmail.com