安すぎる「日本の医療費」に愕然 ※訂正あり

松村 むつみ

(11日10時 編集部より:公的負担分の計算の扱いについて読者から指摘があり、見直したところ下線部分を訂正しました。結論は変わりませんが、数字のミスがありましたので訂正いたします)

小さな子どもがふたりいるので、チョコチョコとよく病院に連れて行きます。風邪やインフルエンザ(風邪は本当は受診は要らないのですが、保育園への説明などのために受診させることがあります)、軽めのアトピー性皮膚炎、副鼻腔炎の疑いなどなど。そのたびに、近所の開業医を受診しますが、診察のたびに支払う金額が「200円や300円」であることは珍しくはありません。

写真AC:編集部

先日、長女の吃音(それほど重度ではない)が、なかなか治らないので、来年度の就学のためもあり、川崎にある病院の専門外来を受診してきました。

まず、言語聴覚士の方の問診や検査があり、だいたい30分くらい。そのあと、しばらく待合にて待った後、医師の診察を受け、診察はだいたい20分くらい。それからリハビリ申し込みの書類を書き、会計して終了。初診だったせいか、それほど混んでいなかったのに4時間ほどかかりました。

それでもって、会計で支払った金額は700円程度。就学前の2割負担でしたので、保険で支払われる分を含むと、診療や検査にかかったコストは全体で3500円程度となります。これは、町のマッサージ店にでかけ、30分のマッサージを受けるのと同程度の金額です(マッサージ30分の相場は3000円程度でしょうか)。なお、自治体や個人の所得によっては、小児医療において、もっと個人の負担が少なくなったり無料になったりすることもありますので、これは助成を受けることがほとんどないわたしのケースでお話ししていることを、お断りしておきます。

700円を支払ったとき、ついわたしは、病院の中をぐるりと見渡し、言語聴覚士や医師、総合受付や診療科受付、会計にいる方々などの顔を順くりに思い浮かべて、さらに、診察室の設備などにも思いを巡らせました。果たして、3500円でペイするのか?医師や言語聴覚士の人件費にもならないのではないだろうか。普通に経営していれば、病院が赤字になるのは至極当然のことであると、ため息をついたのでした。

日本の医療の特徴のひとつに、「薄利多売」があります。無駄な受診をしている高齢者も多く、開業医は混み合い、開業医のほうでも、一回当たりの利益が少ないので、受診回数を減らしたり薬を減らしたりするインセンティブが働きにくい状態です。無駄な薬を飲んでいる人も沢山います。

また、日本は検査代も安く、画像検査にもあまりお金がかからないので、高齢者に対する「無駄な検査」が連発され、それが検査の数を増やし、見落としや放射線科医の人手不足にもつながっています。薄利多売は、医療業界全体の疲弊を招いていて、看過しがたい問題だと個人的には考えています。

また、保険診療分を含んでも、価格がマッサージと同程度ということは、専門知識を使った診療行為がその程度の金額にしか評価されていない(医療職は、専門知識を得るため、あるいは維持するために並々ならぬ投資をしています。マッサージにおいても皆さん努力されていると思いますが、マッサージには設備投資はありませんし大量の事務員も不要です)ということで、悲しい現実には違いありません。

日本には、医療や福祉は「奉仕」であり、無償労働も当たり前、医療費が一部を除いて激安なのは当たり前という感覚があるように思います。

保険診療に対する対価は、厚生労働省の定める保険点数で一律に決まっていますが、診療の一回当たりの単価をもっと高く設定し、無駄な受診をなくしていく必要があるのではないでしょうか。このままでは、早晩日本の医療は立ち行かなくなるでしょう。

松村 むつみ
放射線科医・医療ジャーナリスト
プロフィール