トルコ大統領がマドゥロ氏のベネズエラを支援する理由

現在、ニコラス・マドゥロ大統領が頼りにできる国はロシア、中国、キューバ、イラン、ニカラグア、トルコなどである。しかし、情勢はマドゥロが不利になりつつある。彼の亡命先をリストアップする情報も出始めている。

1月23日にファン・グアイドーがベネズエラの暫定大統領だと宣誓した翌日、トルコのエルドアン大統領はお互い兄弟と呼び合う仲のニコラス・マドゥロへの支援を新ためて確認し、気丈で居続けるように伝えたという。トルコとベネズエラの歩み寄りは2010年から始まった。トルコが米国からの警告を意に介することなくベネズエラを支援するようになったのは、ベネズエラが埋蔵している金が目当てだからである(参照:Libertad Digital)。

2018年12月、ベネズエラの首都カラカスで会談したマドゥロ大統領(右)とトルコのエルドアン大統領(トルコ大統領府公式サイトより:編集部)

トルコは米国と同様に北大西洋条約機構(NATO)に加盟している国であるが、それを物ともせず自国の利害で動くのがエルドアン流のトルコ外交である。それを知っての上で、次第に孤立しているマドゥロ大統領はトルコのベネズエラへの接近を救世主を得たかの如く、マドゥロはトルコのベネズエラへの投資を勧めている。特に、金の産出ではその70%はトルコの所有にし、残り30%をベネズエラのものにすると提案した。

原油の産出は低下し、しかも米国の制裁の影響で原油の販売にも厳しい状態が続いているため、資金難にあるマドゥロのベネズエラにとって唯一頼りにできるのは金の産出である(参照:BBC)。

トルコは金の精錬ができるということでマドゥロが非常に頼りにしている国となっている。この2年間にマドゥロはトルコを4度訪問している。両国の関係は円滑で、マドゥロはエルドアンの名前を自我流に発音しやすいように「エンドロガン」と呼んでいる。それでもそれがエルドアンにとって迷惑にならないほどに親密な(利害)関係を保っている(参照:EL PAÍS)。

マドゥロ政権のベネズエラから金の精錬を昨年7月から任されたトルコにとって、彼が仮に政権を失うことになると、トルコは大きな損失となる。トルコが精錬を任されるようになったのは、米国からベネズエラに科せられた制裁の影響でオーストリアで精錬できなくなったからである。

トルコにとっても自国の通貨リラの下落もあって、金をベネズエラから容易に入手できるというのは自国の経済にとってもプラスとなる。

ベネズエラからトルコに昨年の最初の9カ月で9億ドル(990億円)に相当する金が送られたという。トルコは今年に入って新しく金の精錬設備プラントを設置してより生産力を増している。

その一方で、トルコは昨年の最初の9カ月で6100万ドル(67億1000万円)相当の食料などをベネズエラに輸出している。その内容は小麦粉、石鹸、おむつ、トイレット用品、歯磨き粉、マーブル、自動車部品、建材、医薬品といったものである。特に食料の不足は深刻で、チャベス前大統領の死後、ベネズエラ人の体重が平均して5キロ減っているという。

ところが、ベネズエラのオリノコのアルコ・ミネロ金山での金の産出は基本的に違法だと指摘しているのは国民議会の議員アメリコ・デ・グラチアである。彼が指摘するに、軍人がその産出を管理しているが、その産出に国民議会の承認を得ていないから違法だとしている。国家の財産である金の産出は国民議会の承認が必要と法律で定められているいうのが理由だ。

さらに、同議員の説明によると、政府の金開発公社ミネルベン(Minerven)が採掘を行っていることになっているが、実際にはマフィア組織が採掘を行っており、しかもコロンビアのゲリラ組織民族解放軍(FLN)とレバノンのテロ組織ヒズボラもミネルベンの名前を借りて採掘しているのが現状だとしている。

しかもその発掘のための開発も野放図に行われており、その被害を最も受けているのが土着の原住民だという。

また、これに関係して米国が不審を抱いたのは、精錬するための金を入手したトルコは一部をイランに横流ししているのではないかということであった。その通りだと判明したのは、2016年にトルコ、イランの他2か国の市民権をもっている事業家レザ・サラブが逮捕されて米国の法廷でトルコの企業家、銀行、官僚らが絡んだ組織が存在していることを認め、それを通してイランは金の支払いと交換で天然ガスと石油を輸出しているということが明らかとなったのである。

日に日にグアイドー暫定大統領への世界そして国内からの支持が増えている。マドゥロ大統領は劣勢に立たされている。ベネズエラに多額の投資と借款を提供しているロシアと中国が今後どのような動きをするか観て行く必要があるが、中国は既にグアイドーの側近と秘密裏に接触しいていることも噂されている。ベネズエラと国境を接するコロンビアとブラジルも米国と歩調を合わせた動きを展開している。そして米州機構さらにリマグループもグアイドーを支持している。マドゥロ政権が瓦解するのは時間の問題であろう。