「2021年3月から原則すべての病院でマイナンバーカードを健康保険証として使えるようにする」との報道があった。国をあげての一大施策としてマイナンバーカードが開始して3年経ったが、未だに普及率はたったの1割。その打開策として今回の施策を打ち出したようだが、迷走としか思えない。
そもそも、未だマイナンバーカードが利便性を持たない状況で、既に持っている健康保険証が使える状況で、わざわざマイナンバーカードで代用するためにカード作成をする人が果たしてどれくらい居るのだろうか。メリットどころか、手間としか思えない。
一方で、確定申告では、マイナンバーカードによる認証のために、カードリーダーの購入やら、アプリケーションのインストールやら、そもそもMacOSには不対応やらというシステム環境的な負担が大きく、e-TAXの普及を阻害してきた。にも関わらず、急にあっさりマイナンバーカード認証を手放し、IDとパスワード認証で処理するという施策を開始。e-TAXのオンライン申告率向上を調査研究していた側としては、ハシゴを外されたような感覚に陥った。
確定申告の現状を見直してみよう。持参や郵送など、オンライン以外の申告では厳格な本人確認などなされていないのに、「オンライン」となった瞬間、行政はやたらとハードルを高くする傾向にあるが、なりすましの確定申告が、オンライン化で増えるとは考え難い。なりすましなら郵送の方が足がつきにくい。
データでの申告への不安を煽るのも偏見だ。そもそも紙での紛失も発生するうえ、紙で受け取った書類も結局は職員が転記してデータ化しサーバーで保管している。更には、転記においては入力ミスのリスクがある上に、ものすごい人件費が費やされ、保管場所も必要になる。このように、様々な意味で、オンライン申告率を上げていく必要性がある。
申告方法を割合別に見てみると、下記のようになる。
- 自宅からe-Taxサイトで作成して、印刷して郵送(青色、32%)
- 申告会場から、e-Taxでオンライン申請(ピンク色、29%)
- 税理士等の代理業者による申告(緑色、28%)
- 自宅からe-Taxサイトで作成して、オンライン提出(黄色、4%)
確定申告会場に行ったことのある方はご存知だろうが、会場にはパソコンがずらりと並んでおり、職員のサポートを受けながら、皆e-Taxを使って申告している。会場に行く人は、既にオンライン申告ができているということだ。自宅からのe-Tax申告では、前述のとおり、環境を整えるのが面倒なので、大半の人が作成後に印刷して郵送しており、そのままオンラインで完結している人の割合は、たったの4%なのだ。
このせっかくe-Taxを使って申告書を作っているのに、印刷して郵送している人たちが、オンライン申請してくれたら、紙での提出はほぼ無くなり、大幅に業務効率化できる・・・、そこで取った究極の手段が、今回のIDとパスワード方式だ。これまで長年の課題だった本人認証だが、結局のところ、本人認証には、マイナンバーカードは必須では無かったということが明確になった。これでまた、マイナンバーカードの普及は一歩遠のいた。
このような状況下では、マイナンバーカードを持ち歩く利便性はほぼゼロだ。普及率向上のためには、余程のメリットを提供するか、義務化するか、どちらかしかない。
山本ひろこ 目黒区議会議員(立憲民主党)
1976年生まれ、広島出身、埼玉大学卒業、東洋大学院 公民連携学修了、東京工業大学 環境・社会理工学院 博士課程後期。
外資金融企業でITエンジニアとして勤務しながら、3人娘のために4年連続で保活をするうちに、行政のありかたに疑問を抱く。その後の勉強会で小さな政府理論に目覚め、政治の世界へ。2015年、目黒区議選に初当選。PPP(公民連携)研究所、情報通信学会、テレワーク学会所属。健康管理士でもある。