27、28両日、ベトナム・ハノイで行われる第2回米朝首脳会談は、米国と戦った北ベトナムが南北を統一して親米国家に生まれ変わったことを示す意義深い会談である。米国は北朝鮮にベトナム・モデルをアピールしたい思惑があるようだ。
今回の首脳会談で、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」(CVID)に向けた具体的措置に踏み出せば、朝鮮戦争の「終戦宣言」や部分的な「制裁解除」が行われ、さらに「米朝国交」の可能性が高まる。
しかし、北朝鮮の措置が「部分的な核凍結」に止まる場合は、過去と同じように、「緊張→対話再開→対話決裂→緊張」という悪循環に陥る恐れがある。この場合、最も懸念されるのは米国が最悪の選択を行う危険性だ。北朝鮮が2020年までに核廃棄しない場合、トランプ大統領が再選を睨んで対北軍事行動に打って出る可能性は否定できない。米国の大掛かりな軍事行動の先例を見ると、91年ブッシュ大統領が湾岸戦争に踏み切ると支持率は89%まで上昇した。
さらに、2003年、ブッシュ(ジュニア)大統領がイラクを攻撃すると、支持率が86%まで上昇した前例がある。従って、トランプ大統領はロシアの選挙関与疑惑など野党側の圧力を払拭して再選に向けた支持率を上げる為に、対北軍事行動に踏み切る可能性が高い訳だ。
しかし、別のシナリオにも道を開いている。
トランプ氏は「(北朝鮮の非核化交渉を)急がない、取り立てて急ぐ理由はない。制裁はそのままだ」と繰り返し発言している。これこそ、トランプ流の時間稼ぎだ。それは、北朝鮮の労働党・人民軍などの特権層が経済破綻に耐えられず、金正恩政権に反発し政権を倒す「レジームチェンジ」を視野に入れている。特権層が金正恩政権に背を向ける場合、軍部のクーデターや住民の反政府デモが発生する可能性がエスカレートする。
人間はもともと貧しい環境では不平不満が爆発しないが、豊かな環境から貧しい環境に陥ると貧困に耐えられず、自殺したり、不平不満が大爆発したりする。それこそ、トランプ氏の狙い目だ。
費用対効果を見ると、それこそ、多額の資金投入が必要な軍事行動より国家予算を節約できる。計算が速いトランプ氏ならではの戦略的な制裁圧力であることが分かる。結局,金正恩独裁政権が核保有に拘る場合,金正恩委員長の政治生命は危なくなる。ソフトランディング(体制崩壊)であれ、ハードランディング(軍事行動)であれ、トランプ氏は必ず北朝鮮の非核化を成し遂げるだろう。
官僚やサラリーマンは仕事で手を抜いても給料と身分が保証されるが、経営者は一歩間違えると倒産して莫大な負債を抱え、社員は路頭に迷う。だから、命賭けで事業を成し遂げる。トランプ氏はビジネス畑で「七転八起」の辛い経験を積み重ねながら成功し、人生の二毛作と三毛作を成し遂げて大統領にまで上り詰めた人物だ。その能力と手腕は決して侮れないと考える。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員)
※本稿は『世界日報』(2月22日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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