過大な弱者擁護が成長を妨げる「犠牲者メンタリティ」

長谷川 良

米国のTV俳優、ジャシー・スモレット(ウィキぺディアから)

米国のテレビ俳優ジャシー・スモレット(Jussie Smollett、36)は先月、2人の男に襲撃され、負傷した。スモレットは警察に通達した。彼の証言によると、2人は彼を殴打しながら、「黒人」「ホモ」など罵声を飛ばし、彼に向かって「Make America Great Again」と叫んだというのだ。

時間の経過と共に、別の事実が浮かび上がってきた。スモレットはFoxの人気テレビ番組「エンパイア」(Empire)で活躍していたが、どうやらギャラ問題で不満があったという。「エンパイア」は今、5シーズンを撮影中だ。俳優関係者の話ではスモレットのギャラは1本10万ドルだったとみられるが、彼は自分の市場価格をアップさせるために、襲撃を演出し、2人の男性を雇い、彼を襲撃させ、「ホモだ」、「黒人だ」と叱咤させたというのだ。

彼は襲撃直後、警察官の事情聴取に、「私は彼らを憎まない。私の愛は憎悪の影響を受けない」と述べたという。このニュースが広がると、スモレットへの同情と共感の声が高まり、犯人が白人でトランプ大統領支持者ではないかという憶測まで流れ、民主党を支援する俳優が多いハリウッドでは一躍大きな話題となった。スモレットを支援する声明を発表する俳優も出てきた。彼らにとって、スモレット襲撃事件はトランプ政権を批判する絶好の機会となった。

ここまではスモレットの計算通りだったが、彼を襲った犯人が逮捕され、襲撃が演出だったことが判明、スモレットも偽証罪で逮捕された。スモレットは、「自分は黒人であり、しかもゲイ(スモレットは同性愛者)だ。その自分が社会の多数派の白人、それもトランプ支持者に襲撃されたというニュースが流れれば、話題となり、自分の名前は一躍有名になり、ギャラもアップするだろう」と考えたのだろう。残念ながら、彼の計算は水泡に帰し、刑務所送りとなったわけだ。

米国では少数派の権利を擁護する人種差別反対運動や性少数派(LGBT)擁護が広がっている。特に民主党は、「黒人は常に犠牲となっている」と口癖のように主張してきた。だから、多くの黒人は、「自分たちは犠牲者だ」と信じている。「自分はあなたよりもっと犠牲となった」と、犠牲者争いのような状況すらみられるという。

民主党は自身の支持基盤である黒人が自立し、犠牲者と考えなくなることを最も恐れている。カナダのトロント大学心理学教授ジョーダン・ピーターソン 氏(Jordan Peterson )は、「自身のことに責任を持て」と主張し、「全てのことを社会のせいだと詭弁を弄するべきではない」と強調する。ピーターソン教授は欧米保守派青年層から圧倒的に人気のある学者だ。

一方、米国の黒人女性活動家キャンディス・オーエンスさん(Candace Owens)は「民主党は黒人に対し、『君たちは人種差別の犠牲者だ』と洗脳し、黒人が犠牲者メンタリティから抜け出すことを妨げている」と警告している。

また保守派ラジオ放送の黒人パーソナリティのラリー・エルダー氏は、「黒人は75%が父親がいない家庭で成長してきている。すなわち、家庭の崩壊だ。だから、人種差別が問題というより、家庭の崩壊が最も大きな問題だ」と指摘、家庭崩壊を助長するような政治を暗に批判している。

欧米社会では弱者、犠牲者を過大に擁護する傾向がある。その結果、そのステイタスに甘んじる少数派が増えてきている。社会学者はそれを「犠牲者メンタリティ」と呼んでいる。

犠牲者メンタリティは「われわれは多数派によって迫害され、虐待されてきた。全ての責任は相手側にある」という思考パターンだ。フェミニズム、ミートゥー運動もその点、同じだ。しかし、それが行き過ぎると、弱者、少数派の横暴となる一方、強者=悪者説が広がり、強者は守勢を強いられる。社会は活力を失い、健全な社会発展にもブレーキがかかる。

いずれにしても、スモレット事件は米社会の黒人が置かれている状況を鮮明に現わしている。同時に、事件が報道されると、慎重に検証することなくスモレットを擁護し、ここぞとばかりにトランプ政権批判に利用したCNNやリベラルなメディアの対応には呆れるばかりだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。