3月21日の日経朝刊に「企業不祥事に保険」との見出しで、東京海上日動さんの新しい保険開発について報じられています。企業不祥事発生時における企業のブランド価値の毀損を保険で賄う、とのこと(4月から販売開始)。食品への異物混入や情報漏えい、施設内事故、従業員による不適切行為などが保険の対象のようですが、組織的な違法行為は除外とされています。
補償限度額は約1億円で、具体的には第三者委員会の費用や弁護士、コンサルタント会社への相談費用等が想定されているようです。新聞が報じるように、こういった保険の開発が予防意識の向上につながればよいと思います。
ただ、第三者委員会がまじめに仕事をすればするほど、保険を使いたい会社側の意思とは離れていきますね。件外調査を含めてフォレンジックス調査を厳格に行えば費用は著しく増えますし、また新旧にかかわらず「経営陣による指示があった」と第三者委員会が認定すれば保険会社が免責される可能性が高まります。そうなりますと、「なんちゃって第三者委員会」(会社側の意思を上手に忖度して「第三者委員会」のふりをする委員会)が出現する可能性がこれまで以上に高まるのではないでしょうか。
また「ブランド毀損を防ぐ」ことが目的であれば、たとえば世間に公表していない不祥事などはどうなるのでしょうか。公表しないための危機対応などにもかなり費用は要しますし、公表されずとも内部告発対応の支援なども「ブランド毀損の防止」といえそうです。いずれにしましても、保険金が出るための要件というのも、かなり微妙な場面が予想されるのではないかと思います。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。