日産のガバナンス改革:定款変更より社内ルールの改訂に期待

Mike Mozart/flickr:編集部

日産自動車のコーポレートガバナンスの改善に向けて、いよいよ27日に同社ガバナンス改善特別委員会が報告書をまとめるそうです(産経新聞26日朝刊記事より)。

産経記事によると、会長職は空席とし、取締役会議長と会長との関係を分離すべきである、指名委員会等設置会社に移行すべきである、といった改善案が盛り込まれる、とのこと。いずれも日産の定款変更が必要なので、4月8日の臨時株主総会では定款変更議案が上程されるようです(ただし機関形態の変更については準備が間に合わない可能性あり)。

世間では企業統治改革が進み、「形式から実質へ」とガバナンス改革が深化している最中です。日産のケースでは、ルノーとの経営支配構造にも配慮しながらのガバナンス改革…ということで、様々な思惑があるのかもしれません。

しかし、本気で執行と監督を分離するのであれば、私は定款変更よりも、むしろ定款変更と同時並行で社内ルール(たとえば取締役会規程、執行役・代表執行役に関する職務権限規程など)を変更することこそ必要ではないかと考えます。たとえ指名委員会等設置会社に移行したとしても、①社外取締役は最低2名でも可、②取締役と執行役の兼務は可、③監査委員は取締役会がいつでも解職・選定可、ということなので、運用次第では「仏作って魂入れず」のガバナンスになってしまうおそれがあります。

そこで、私としては①取締役会では独立社外取締役を過半数とする、②取締役会議長は社外取締役から選定する(これまでの報道によると、この点は採用される可能性があります)、③内部統制の一環として、執行役の監査委員会への報告義務を明記する(指名委員会等設置会社では会社法357条相当の規定が除外されていますので)、④執行役の取締役会への報告について、原則として代理報告を禁止する(会社法417条4項の例外とする)、⑤監査委員会に最低1名以上の常勤監査委員を置く(監査権限を最大限尊重する、社外取締役の監査委員への情報提供を保証する)といった社内ルールを策定すべきと考えます。

②については採用される予定のようですが、ガバナンス改善委員会のトップの方がそのまま社外取締役に就任して議長となる…という点はどうなんでしょうか。機関投資家の評価が分かれそうですね。③、④、⑤は、グレッグ・ケリー氏が日産前会長とともに刑事立件されたにもかかわらず、これまでほとんど職務内容が報じられてこなかった点に配慮したものです。

前会長の不適切行為が様々な形で報じられている(明るみになっている)にもかかわらず、捜査機関側からも、また日産側からも、代表取締役としてのケリー氏の行動については何らの情報も提供されていません。このあたりは改善特別委員会の報告書で明らかになるのかもしれませんが、日産のガバナンスにおける「黙認されたブラックボックス」だと思います。本気でガバナンスの改善を図るのであれば、このような「実質」のところに踏み込んだ改革が必要ではないでしょうか。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。