新社会人へ贈る、先輩上司が教えてくれない君達の存在意義

期待と不安と助言と苦言

4月1日から新生活がスタートする方は多いだろう。なかでも、新たに社会人となる皆さんは、これまでの学生時代と違った生活スタイル、役割、責任、醍醐味などを頭の中でシミュレーションし、期待と不安が入り乱れていることと推察する。

恐らく、社会人になってから様々なことを先輩や上司から言われると思う。それは、時には助言であり、時には苦言であろう。「今の若いもんは」というアゲインストの声も耳にするだろうし、「新人はやっぱりいいね、新しい風だよ」といった追い風のコメントも受け取ると思われる。

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触れられることのない話

しかし、なかなか職場の先輩や上司が教えてくれない話がひとつある。教えてくれない理由は、照れ隠しの場合もあるし、教育上の理由の場合もあるし、ライバル視するが故の場合もあるし、そもそも知らない場合もある。いずれにしても、あまり耳にしないだろうが、社会人になる前のフレッシュなこのタイミングで、携えておいて損のない話である。

何の話かといえば、「なぜあなたが採用されたのか」という極めてプリミティブな話だ。「いやいや、そんな基本的なこと、人事から聞いていますよ」とお思いだろう。「新たな価値を創造すべく挑戦することでしょ?」という上昇志向のあなたも、「ひとまずは労働力として役に立たないと」という控えめなあなたも、少しばかり、早合点を一時停止いただきたい。

「無い」という存在意義が「有る」

企業が新卒採用する理由は、もちろん労働力確保でもあり新陳代謝でもあるだろう。組織ごとの独自理由もあるかも知れないが、詰まるところ、組織のビジョンを実現するためのミッションの担い手として、必要と判断されたからである。

そこで期待されるのは、当然、中途社員や派遣社員やアルバイトとは別の期待であるが、それが何かと言えば、ジェームズ氏の次の言葉が正鵠を射ている。彼は「君たちは何を期待されて入社したのかよく考えてほしい。」と言った。ジェームズ氏の会社で新卒の学生を積極採用する理由は何か。彼は続けて言う。「彼らが社会人として成功体験を積んでいないから」だと。新社会人の価値を「成功体験の無さ」に「有る」とした彼の名は、ジェームズ・ダイソン。「吸引力」という新たな掃除機の選択基準を世に根付かせたDysonのファウンダーである。

実は、同様のことを「典型的な日本企業の文化に浸っていない新卒が頑張って独特な企業文化を築いて来ました」という表現で、DeNAのファウンダー・南場智子氏も述べている。もちろん、両者が述べている事柄の適用範囲は本来的には自社社員限定である。が、変化や挑戦や成長を志向するのが昨今の多くの企業。仕掛けねばならない状況という意味では同じ境遇であり、多くの新社会人にも援用可能なメッセージではないだろうか。

アウトサイダーの価値

成功体験を積んでいないことは、なぜ価値があるのだろうか。一言でいえば、アウトサイダー(部外者)の価値である。科学者トーマス・クーンは、パラダイムシフトを提唱するパターンとして、「とても年齢が若い」か、あるいは「その世界に入って日が浅い人」という傾向を指摘した。言い換えれば、その道のプロではない素人にこそ、変革のチャンスが大きいといえる。この価値基準においては、先輩上司に一日の長はない。

たしかに、今やどこにでもあるマクドナルドに目をつけたのは創業者のマクドナルド兄弟ではなくミルクシェイク製造機のセールスマンだったレイ・クロック氏であったし、アメリカのコンビニエンスストアに目をつけ周囲の反対を押し切って日本で初めてセブン-イレブンをオープンした鈴木敏文氏は「販売も仕入れもしたことがない。自分の強みは常にお客様であること」が口癖である。正に、アウトサイダーの価値を発揮した好例である。

同じ「コンビニ」でも、TSUTAYAを軸足に次から次へと新企画を打ち立てる企画集団カルチュア・コンビニエンス・クラブのファウンダー・増田宗昭氏は、二子玉川ライズの蔦屋家電オープンにあたって「家電業界内だけに目を向けていたら絶対にできない。アウトサイダーの視点が必要」と語っている。

他にも、元々CGアニメの会社として近藤広幸氏が立ち上げたマッシュホールディングスが経営安定等の理由で始めたアパレルで成功を収めているのがgelato pique(ジェラート・ピケ)であるし、私達がよく耳にする「終身雇用」だって、解明したのは日本人ではなくアメリカの経営学者ジェームズ・アベグレン氏であった。そのアメリカでは、有力ベンチャー企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)のうち50%以上が移民による創業であったというシンクタンクの調査結果もある。全てのアウトサイダーに価値があるという言い方は早計かも知れないが、アウトサイダーに活躍できるスペースがあることは間違いない。

わざわざ言及する必要性

世界を前へ推し進めてきたのは、どっぷりその世界に浸かりきった玄人だけではない。しがらみなきアウトサイダーも世界を変えてきた。では、なぜそんなことをわざわざ新社会人の皆さんに向けて言わねばならないのだろうか。

それは、東京大学やハーバード大学で教鞭をとってこられた柳沢幸雄氏(開成中学校・高等学校 校長)の発言にヒントがある。彼は、「日本の高校生は世界一優秀。それが、大学入学以降、成長の勾配が米国より緩やかになり、40歳の頃には逆転されてしまう」と指摘し、その原因を「出る杭を打つ日本の企業文化」に見出した。どのような企業文化かといえば、「米国は加点主義なので発言しなければ0点。日本企業の評価は減点法。失敗する度に減点されていく」というのだ。

厳密には、そうした企業もあるだろうし、そうでない企業もあるだろう。しかし、たとえば入社初日から自分の意見や主張が通るほど社会は甘くない。先輩や上司にもプライドがある。「これって必要?」「この仕事ってもっとこうした方がいいんじゃない?」とあなたが思っても、そのようには「できない理由」がマシンガンの如く飛んでくる可能性がある。そんなとき、発言や行動を控えるべき理由を探すのではなく、地道に実直に、実現できる方法を試し尽くしてほしい。入社は海外旅行での入国と同様、「入ってからが本番」であり、おもしろいのは「ここから」なのだ。

「叱られないこと」と「褒められること」は違う

就職活動生からよく「ありがとうを言われる仕事がしたい」と聞く。読者のあなたも面接などで使ってきたフレーズかも知れないが、「ありがとう」を頂くということは、相手から褒められるということ。あなたのアクションに対するリアクションである。何のアクションもないところに、リアクションは発生し得ない。つまり、「褒められる」と「叱られない」の間には天と地の差がある。

SNS世代にとっては「炎上」や「叩かれる」方のリスクを過大視してしまうかも知れない。行動した人の方が行動しない人よりも叱られる可能性は高いかも知れない。しかし、「ありがとう」を相手から引き出し褒められるためには、多少のリスクを冒してでもチャレンジすることが必要不可欠だ。リスクヘッジにばかり気を取られず、リスクテイクできるか否かが問われる。称賛は、行動した人にしか与えられない。何もせずノーベル賞を受賞した人がいないように。

もちろん、「どんどん出る杭になれ」などと無責任なアドバイスを差し上げるつもりはない。もしあなたに「顔を出しつつある杭があるのならば」の話である。名選手「元イチロー」だって、未だ名前のなかった打法は当時周囲に理解されず、監督にバットを短く持つよう言われても「監督は2-3年で替わる。僕は僕のスタイルを作りたい」と従わなかった。きっと、様々なノイズが渦巻いていただろう。行動するということは、いつだって叱られる可能性と隣り合わせという意味において、立派なチャレンジである。是非、周囲に迎合せず、安易に妥協せず、チャレンジを怠らないでほしい。

それでも、行動することは損ではない

大半の成果とは膨大な試行錯誤の上に成り立っている。成功例ばかりが取り沙汰されるが、ハインリッヒの法則よろしく、水面下には膨大な失敗例が死骸の如く横たわっている。あの「元イチロー」でさえ、通算打率は約3割。つまり、約7割は失敗である。が、その7割がなければ3割も生じていない。

先輩や上司のなかには、マナーやルールやリスクの話ばかりしてくる人もいるだろう。注意や警鐘を趣味とする大人がどの組織にもいることは既にご承知の通りである。それでも、「行動することが損である」という発想だけは、持たないでいただきたい。人が行動を止めたとき、イノベーションなど起きるはずがない。大丈夫、一見善良そうな先輩や上司であったとしても、彼らが必ずしも絶対的正解を持っているわけではないし、そもそも解こうとしている問いが間違っているケースだってある。

日々大学生と接していて、損得勘定を超えたところの貢献意欲は、恐らく若い世代の皆さんの方がよっぽど秀でていると感じる。君達は明らかに、会社貢献より社会貢献に価値を見出している。それでいいのだと思う。会社は社会の公器なのだから、「社会のため」を追求すれば、必ず「会社のため」にもつながる。

「できない理由」より「できる方法」を

アウトサイダーとして立ち上がったナチュラルな疑問に蓋をせず、顔を出しそうな杭があるのであれば、大切に育てていただきたい。

「住めば都」とはよく言ったもので、多くの会社は「働けば楽園」である。なぜなら、チャレンジする先輩や上司が多い会社は恵まれた社風であり、少ない会社ならば逆にチャンスだからだ。何れもオイシイ。早々にブラック企業だと断定する前に、そして、できない理由を探す前に、まず、できる方法を試し尽くしてほしい。

「大御所に出演してほしいけれどきっと出てくれないだろう」「出てもらわなくても面白くする方法はないか」と加地倫三プロデューサーが考え尽くした結果生まれた『アメトーク』のように。

迷ったとき、悩んだときは、「君たちは何を期待されて入社したのか」という原点に立ち返り、存在意義を確認してほしい。先輩や上司が教えてくれないその価値を。

アウトサイダーの新社会人よ、萎縮することなかれ。

高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。1年間の育休を経て、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を活発化。