マネタリーベースで物価を動かせたのか

黒田日銀総裁(日銀サイトから:編集部)

日銀が2日発表したマネタリーベース(資金供給量)の3月末の残高は506兆2932億円となり、3か月ぶりに増加した。

「教えて日銀」という日銀のサイトによると、マネタリーベースとは、「日本銀行が世の中に直接的に供給するお金」のこと。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と日本銀行当座預金(日銀当座預金)の合計値とある。

マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

2013年12月に日本経済団体連合会審議員会における「デフレ脱却の目指すもの」と題する講演で、黒田日銀総裁は次のようにコメントしていた。

具体的な金融緩和の手法としては、日本銀行の保有額が年間約50兆円増加するように国債の買入れを行い、マネタリーベースを2年間で2倍に拡大させることとしています。2年後のマネタリーベースは、名目GDPの約60%に達します。これは、現在の米国のFRB(22%)や英国のイングランド銀行(22%)のケースを遥かに凌駕する規模であり、歴史的にも例のない金融緩和と言えます。

歴史的にも例のない金融緩和とはこの年(2013年)の4月の金融政策決定会合で決定した量的・質的緩和政策である。黒田総裁は次のように続けている。

量的・質的金融緩和は、様々な波及経路を想定していますが、日本銀行のこれまでの金融緩和政策や、海外の主要中央銀行で実施されている金融緩和政策と大きく異なるのは、「期待の転換」を特に重視している点です。「量的・質的金融緩和」は、強く明確なコミットメントとそれを裏打ちする異次元の金融緩和によって、市場や経済主体の期待を抜本的に転換し、インフレ予想を直接的に引き上げることを目指しています。

「期待の転換」は起きたのか。マネタリーベースと物価の関係を追ってみたい。日銀のマネタリーベースのデータが1996年7月からであったので、1996年7月以降のマネタリーベースと日銀の目標としている物価指数である消費者物価指数(除く生鮮、前年同月比)を適当に比べてみた。

年月 マネタリーベース コアCPI前年比
1996年7月 489,123 プラス0.3%
1999年12月 929,780 マイナス0.1%
2003年3月 1,062,876 マイナス0.6%
2012年4月 1,230,656 プラス0.2%
2013年4月 1,552,803 マイナス0.4%
2014年4月 2,255,347 プラス3.2%(消費税の影響を除くとプラス1.5%)
2015年4月 3,058,771 プラス0.3%
2016年4月 3,861,893 マイナス0.4%
2017年4月 4,621,733 プラス0.3%
2018年4月 4,983,048 プラス0.7%
2019年2月 4,972,997 プラス0.7%

上記は適当にピックアップしたものではあるが、そのデータは日銀と総務省のサイトからピックアップできることで参照してほしいが、意図的に何かを無理矢理導こうと抜き出したものではない。

この数値を見比べて、この両者に何かしらの相関関係はあるかと試験で問うたとすれば、その解答は特に相関は見当たらないとの解答が多いというか、それを正解とせざるを得ないのではなかろうか。タイムラグがあるとしても相関は見えない。

そもそもマネタリーベースとは何か、日銀が何をしているのかに多くの国民の関心は薄い。量的・質的金融緩和によって国民の「期待の転換」を図るなどということができるのかは甚だ疑問であったし、現実にこれらの数値が期待の転換などできなかったことを示している。

さらに、ここまで長期国債の買入を主体にマネタリーベースを歴史的にも例のない規模まで増加させたしまった副作用はまったくないものなのか。日銀にあらためて問うてみたい。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。