働き方改革関連法が4月に施行されました。昨年の国会でもめたあの法案であります。端的に言えば残業時間上限規制、有給消化の義務化、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度が柱であります。
残業は月あたり繁忙期で最高100時間、年間で720時間になります。原則的には月45時間年360時間となります。土日含まずで計算すると繁忙期の最高が一日5時間、通常時には2時間ちょっとということになります。多くの会社が5時半ごろが終業時間だと思いますので7時半には会社の電気が消えるはずであります。これが現実社会であり得るのか、といえばないでしょう。
有給休暇の消化については5日間は最低でも取らせる、ということになっています。この意味が私にはさっぱりわからないのですが、多くの方は有給は年に10日以上付保されるはずでそのうち法律的縛りである5日間だけは取らせ、あとは企業と従業員の判断に任せる、ということになっています。おかしいですね。
同一労働同一賃金については社員、派遣、パートなどの賃金格差を解消しようというものであります。ではこの同一労働を具体的にどう説明できるか、これは言うほどやさしいものではありません。例えばスーパーのレジ打ちでも業務をこなすだけの人とベテランで新人指導ができる人、レジの不調に対応できる人、レジ締ができる人、顧客のクレームに対応できる人などいくらでもこじつけられる差はできます。
最後の高度プロフェッショナル、略称「高プロ」は年収1075万円以上の一定のカテゴリーの専門職の人には成果型労働報酬制度が導入されます。つまり原則的には時間に縛られない労働ということになります。国会審議の際、野党が特に吠えたのがこの項目であります。
ではこれが日本の労働事情にどれだけ変化をもたらせるか、といえば多分、一部には変化らしきものはあると思います。その一部とはラインの仕事をされている方々であります。それでもざっくり8割ぐらいの方はライン業務だと思われますのでその方々にはこの新しい働き方改革法案がばっちり組み込まれます。
しかし、私は肝心かなめの問題は絶対に解決しないと思っています。それは全体の労働者の2割程度に当たるマネージメント部隊にこの枠の適用をすると日本的経営の特殊性も考えると事業が回らないからであります。マネージメント部隊が実は一番ストレスフルな業務をこなさねばならないことはこの法律を作った政治家の方が一番ご存知でしょう。国会答弁の際、徹夜をいとわず、待機しているのは役所の幹部職員ですね。
それ以外にも例えばイチローさんが引退記者会見をしたのは夜中の12時。その時、イチローさんが冒頭こんなにたくさんの記者の方が…と発言しました。これを裏返せば記者やカメラマンの多くは徹夜作業であったはずです。(記者は取材の後、文章を起こさねばなりません。)この人たちの残業はいったい何時間でしょうか?
企業でストレスをためて自殺や過労死するケースは概ねマネージメント側の職に就く人たちです。そこには業務の範囲はあるようでなく、新たに発生した事案に臨機応変に対応するというフレキシビリティが要求されることも理由です。ここに企業と労働者の歪みがあるのですが、今回の法律では「ざる」になっています。
例えばコンピューターソフトのデベロッパー、プログラマー、デザイナーたち。私の知る人たちをみていると時間は関係ありません。案外、夜中の方が誰にも邪魔されないといって黙々とやる人も多いものです。しかしその人たちの職業は高プロのカテゴリーにはありません。
もっと言うならこの法律を「ざる」にする最も簡単な方法は従業員にせず、コントラクト(契約)ベースに変えてしまうのであります。ソフトのデベロッパーを業とする個人事業主たるAさんがB株式会社の開発するソフトウェアの〇〇のところを何日までに完成させるという契約にすればよいのであります。これでこの法律には全く抵触しなくなります。
実際、コントラクト(契約)報酬型は北米では非常に多く、ごく普通であります。建設や不動産開発業界でも多くがプロジェクト単位の契約で働いています。
それでは日本は問題が解決できないのではないか、とご意見される方もいらっしゃるでしょう。私は逆で、これで企業と働く人の関係が明白になり、仕事とは技量を売るものであるという本当の意味でのプロフェッショナルリズムが勃興すると考えています。
将来、自分の専門性に自信があるなら社員にならず、自分の技量を契約ベースで売り歩く、ということが起きると思います。「ドクターX」のようなものです。この手法の問題点は他社の内容が駄々洩れになる危険であり、これには一定の歯止めをかける手段を考えなくてはいけないでしょう。
ただし、今回の法律改正を通じてその趣旨とは違う意味で働き方が変わるきっかけになるような気がしています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月4日の記事より転載させていただきました。