産経さんは大きく「ゴーン氏、4回目の逮捕へ」と報じています。逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがないからこそ保釈が許可されたと思うのですが、逮捕の理由や必要性はあるのでしょうかね?ゴーン氏がツイッターで語った内容と関係はあるのでしょうか?ということで(?)、本日は産経新聞さんの記事についてひとこと。
4月3日の産経新聞朝刊「社説検証」は、日産の企業統治に関する各紙社説をテーマにしていて参考になりました。ガバナンス改善特別委員会報告書の公表を受けて…というものですが、産経と読売は「企業統治の改善は形だけでは意味がない」として「監督機関としての取締役会の実効性を高めよ」(産経)、「経営者や社員の意識改革を進め、社内風土の見直しを図れ」(読売)としており、おおむね当ブログで私が述べたところと合致したものです。
日経は「(執行と監督の分離を明確にしたガバナンスは)他社にも参考とすべき点がある」として、特別委員会報告書を評価していますが、朝日は「今回の内容で経営の立て直しは十分とはいえない」「前会長以外の経営者の経営責任について踏み込んだ検討や説明をしていない」と厳しい意見です。ちなみに上記産経記事では紹介されていませんでしたが、東京新聞ではおなじみ八田進二先生(青山学院大学名誉教授)も、たしか朝日と同様「検証が不十分」との意見を述べておられ、大きく紹介されていました。
(なお、毎日新聞もけっこう詳細に取り上げておられたように思いますが、上記の産経記事ではなんらの紹介もありませんでした。)
最近の各紙記事では日産のガバナンスを語るにあたり「なぜカリスマ支配者の暴走を止められなかったのか」といった問題提起がなされていますが、そもそも前会長さんが「暴走している」という認識は他の役員の方々にはあったのでしょうか。
まったく暴走していない経営者でも「うるさい監査役はやめさせろ」とおっしゃるケースも普通にありますし(笑)、グレッグ・ケリー氏のように「(ブラックボックスを引き受けて)なにをしているのかわからない役員さん」がいらっしゃる会社も結構ありますよね。
「経営の透明性を高める必要がある」(産経)のはそのとおりなのですが、では具体的に日産の事例では、ゴーン氏の何をもって(取締役会が止めることができた)「暴走」と判断するのか、また「暴走」か否かの判断は誰がするのか、そこが明確にならないと議論が進まないように思います。
私もゴーン氏の「暴走」とは何であったのか、いまだによくわからないのですが、開催時間がわずか20分であったり、利益相反取引や関連当事者取引に関する審議がされていなかった、代表取締役(ケリー氏)による業務報告がなされていなかった、となりますと、そもそも「取締役会の暴走」があったのではないかとの疑念が生じてしまいます。
日産をめぐって、今後フランス政府やルノーが経営支配を強めようとする動きが出るかもしれませんが、そこで必要なのは経営の透明性を高める以前に、まず「取締役会の暴走」の根本原因を究明することではないかと思います。これだけ日本経済に影響を与えるほどの大企業ですから、「カリスマ経営者」以外にも「取締役会の暴走」を許してしまう要因(力学的要素)はたくさんありそうです。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年4月4日の記事を転載させていただきました(タイトルは編集部で一部改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。