日産のカルロス・ゴーン前会長が4日早朝に4度目となる逮捕をされたことを受け、弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は同日、日本外国特派員協会で記者会見を開いた。今回弘中氏が特に問題視したのが、「被告人として公判活動に必要な裁判資料」を検察が押収したことだ。
弘中氏によると、法律の建前としては、「被告人の手元には当該犯罪に関係する証拠がある可能性がある」ので、だからそれを押収するという構造になっている。だがゴーン氏はこれまで3回逮捕されており、問題になっている案件に関するものはとっくに押収済み。逮捕の容疑も以前から報道されていた現在起訴されている一連の事件で、決して目新しいものではない。
今回検察が持って行ったのは、制限住居の狭い家の中にあったゴーン氏の電話やノートや日記であり、それらはすべて裁判のための資料だった。また今回一緒にいたということで、容疑者でもないゴーン氏の妻キャロルさんのパスポートや携帯電話(弁護士とのやり取りとの記録を含む)まで検察は全部押収し、キャロルさんはショックを受けているという。
また「保釈中の逮捕は異例」との報道については弘中氏は「当然」「あってはならない」とし、その理由として保釈に関する2つの原則を挙げて説明。
まず①保釈は起訴後にしか認められないこと。起訴はすべての証拠が揃ったときにできるもので、手元に証拠がすべて揃っていることを意味する。
そして②保釈は被告人の権利とされていること。法律上、起訴されれば被告人と検察官とは対等な当事者となっており、被告人に対して起訴後は検察官が取り調べをすることは原則禁止。なぜなら、裁判の相手方に検察官が手を出すのはあってはならないことだから。
以上のことから弘中氏は今回の逮捕や押収は明らかな「防御権侵害」「弁護権侵害」「文明国にはあってはならない暴挙」として検察に強く抗議。また身柄拘束という状態を利用して圧力をかける「人質司法」との関連で、報道陣には、
一連の事件について保釈中の人間を逮捕して、持っている裁判の資料まで全部持っていくということが、果たして海外の方々の目から見て許されることなのかどうかということも、きちんと考え、報道していただきたい
と最後に注文を付けていた。
一方、弁護士の紀藤正樹氏は、「一連の事件ではなく別件での逮捕で当然の流れ」「家族の逮捕もありうる事態だからキャロル夫人の携帯電話などまで押収された」との認識を示し、「一流の刑事弁護士は権力の暴挙に備え、重要記録は本人に渡さず法律事務所に保管しておくのが一般」と弘中氏に苦言を呈した。